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【藤原葉子氏 2/2】お茶の水女子大学「SHOKUIKUプログラム」 食の未来を見据えた新しいかたち Food
Innovation

【藤原葉子氏 2/2】お茶の水女子大学「SHOKUIKUプログラム」 食の未来を見据えた新しいかたち

 2011年の開講以来、食のリテラシーを重視し、専門性を生かした多彩な食育の人材育成を行ってきたお茶の水女子大学大学院「SHOKUIKUプログラム」。
10年が経ち、時代の流れに合わせてプログラムは今、変化を遂げようとしている。
プロジェクトの今後の展開、食育の現場が抱える問題などを、プロジェクト担当責任者であるお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系 藤原葉子教授が語る。

 

SDGsを取り入れた新たなプログラムへ

 

 食教育、食科学、食環境、食文化の4つを主軸にして食のリテラシーを研究してきたSHOKUIKUプログラムは、2022年度をもってクローズとなる。その後はSDGsの要素を取り入れた内容への改編を予定しているという。

「これまでもSDGsという観点から安心・安全、地産地消などは身近なトピックスとしてプログラムの中で取り上げてきました。ただ、非常勤講師の方のお話などを伺っていると、食の問題はフードロスやフードシステム、生産における環境負荷など、日本国内にとどまらず世界的な課題になっています。だからこそ、これからはグローバルな視点で食環境を捉える必要性を感じました。食と経済はどうつながっていくのか、持続可能な食とはどういうものなのかなど、SDGsやサステナブルにまで視野を広げ、食育もシフトしていくべきだと感じています」

食のエビデンスという基本コンセプトは変わらないが、行動変容や環境の変化など時代の流れに応じて、プログラムは今後も柔軟に変化をしていくべきだと藤原氏は語る。

 

P1030725宇都宮大学と提携し「食育フィールド実習」を実施


藤原氏が考える食育における課題

 

 これまで藤原氏が長年食育に携わってきた中で改めて感じることは、日本の食への危機感だ。

「いくら食が大事だ、食育だと言っても、お金がなければ、きちんとした食事をすることさえできません。経済的な問題や置かれた環境によって、どのような食事をすることができるか影響されるところが大きい。ゆえに、多くの人が食にきちんと意識を向け、自分が置かれた環境を理解し、対応策を考える必要があると思っています。例えば、現在の食料自給率では、日本人の食事をカバーしきれません。これまでは日本に経済力があったから、品質的にも、健康的にも、栄養的にも、いいものを輸入することができた。ところが今、良い食料はみな中国に流れています。このまま何も手を打たなかったら10年後の日本の食卓はどうなってしまうのか。このような危機感ひとつとっても、もっと多くの人が共有すべきテーマですよね」

だからこそ、新しいSHOKUIKUプログラムでは、多くの人が食に意識を向けることができるような方法を模索している。

 

今後は多くの人が食を学べる場に

 

「大学で栄養学を研究していると、講演依頼や特定の食べ物に関する質問などを多くいただきます。ただマスメディアでは医師や薬剤師など、食に関しての研究をどこまで行っているのかと疑問に思う方でも、その効能や弊害について発信していることが多い。食べ物は薬ではありませんから、ひとつの食材が何かに効くことも、毒になることもありえません。例えば糖質制限は体に良いと誤解されている方も多いですが、糖質は体に必要な栄養素。糖質の摂取が過剰になっても、不足しても体には良くないため、正しく摂取することが大事です。つまりそれは栄養学ではなく、リスクマネジメントの話なのです。こういう誤った情報が世の中に溢れている今、エビデンスを元にした正しい知識を身につけることは必須であると考えています」

 

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SHOKUIKUプロジェクトが監修した食育教材(左)と、監修・編集・発行したレシピブック(右)

 

幅広い人材を育ててきたSHOKUIKUプログラム

 

SHOKUIKUプログラムには2つのコースが用意されている。基本を学ぶ2年間のベーシックコースでは、修了した学生はお茶の水女子大学専門食育士の資格を与えられ、博士課程のアドバンスコースに進むことができる。 

「さらにこのプログラムでは任期付きの助教を4人採用することができました。彼女たちは自分の研究を行いながら、プログラム教育に関わることで、博士号を持った上で、教育歴・研究歴も積み、高等教育機関での即戦力としての能力を蓄えることができる。アドバンスコースからさらに1段階上の教育環境を作ることができたのです。このプログラムで3つのグレードの人材を育てることができたことは大きな成果だと思っています」

10年にわたる活動でベーシックコースを修了した学生は100人を超えた。彼女たちは現在、教職や食品関係の企業で研究員を務めるなど、様々な食の領域で活躍をしている。そしてSHOKUIKUプログラムは今、新たなフェーズに入ろうとしている。

 

お茶の水女子大学 文部科学省特別経費
「多様な食育の場に対応可能な高度専門家の育成」プロジェクト
SHOKUIKUプログラム

https://www.cf.ocha.ac.jp/ochashoku/index.html

 

藤原 葉子
Yoko FUJIWARA
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お茶の水女子大学家政学部食物学科を卒業。同大学大学院人間文化研究科で博士取得。現在、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系ライフサイエンス専攻の教授を務める。専門は栄養化学、脂質栄養学。

 

<文 / 林田順子>