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【TFI】Future Food Instituteの本拠地イタリア視察レポート(後編) Food
Innovation

【TFI】Future Food Instituteの本拠地イタリア視察レポート(後編)

Tokyo Food Institute(TFI)が次に向かったのはイタリア南部にある人口2,000人のポリカ市。

ポリカ市は近年、リジェネラティブ※1で伝統的な「地中海式の食生活」の研究・発信を行うことで、地域の経済競争力を高めるプロジェクト「Pollica2050」を推進している。
Pollica2050では、政策提言、自然や環境、健康、社会やコミュニティ、文化や伝統継承、経済的発展の6つのプロジェクトを柱に、活動を進めている。Future Food Institute(FFI)は、特に食において中心的な活動を行なっており、市内外のステークホルダーを巻き込み、ポリカ市にリビングラボを創設している。

※1リジェネラティブ(Regenerative):自然環境が本来もつ生成力を取り戻すことで、再生につなげていく概念(参考:https://wired.jp/article/the-regenerative-company/

 

目次

  1. 行政との連携でポリカ市全体がリビングラボに
  2. 世界が注目するFFIの教育プログラム


行政との連携でポリカ市全体がリビングラボに

 

リビングラボとは、人々の生活空間の延長線上で研究開発や社会実験を行い、そこに様々なバックボーンがある人を集まり、共創する環境を作ることで、新たなサービスや社会の仕組みを作る、現在世界中で取り組まれている、オープンイノベーションの場のことだ。

「最近は日本でも行政などがリビングラボに注目をしていますが、概念的な部分の理解に留まっていることが多いのが現状です。この視察ではFFIが実践するリビングラボというのはどんなものなのか、日本で展開するにはどんなことができるのかなどを視察の目的としていました」

「サスティナブル」が持続可能を目指すのに対し、「リジェネラティブ」はより良い自然環境に再生させることを意味することから、次のアクションとして注目されている。FFIはポリカ市で行われる活動のすべてがリジェネラティブに繋がると話す。

「例えば、もともとはただの山肌が広がっているだけの土地を、土から改良し、痩せた土地を再生して作られたオリーブ農園がありました。新たな産業を生み出すだけでなく、地中海食を語る上で重要な食材であるオリーブの継承、そしてリジェネラティブな観点で言うと土地と農業の再生でもあるわけです。また生活者だけでなく、ツーリストがポリカを訪れたときに、どのお店に行っても地中海式の食生活になるのも1つのリビングラボの形でしょう。

4オリーブ農園の土壌改良(写真左)、同じく訪問した白いちじく農園(写真右)

例えば日本であれば、ビルの中で生活をしていて、そこで出る生ゴミはすべて堆肥になって、農場に戻るというサイクルができていれば、リジェネラティブを意識せずに生活をしていても、新しい取り組みに参画していることになる。そしてこのシステムを何かのきっかけで知ることができれば、マインドセットも自然と変わってくるはずです。ラボの中で研究開発やイノベーションに取り組むのではなく、実際の生活の中で人々に提供し、実装していくことがリビングラボなのだと実感しました」

 

世界が注目するFFIの教育プログラム

 

ポリカでの気づきのきっかけのひとつとなっているのが、ポリカ市とFFIが中心となって開催したイベント「RegenerAction」だ。

「このイベントではワークショップを通して、どういう取り組みがリジェネラティブに繋がるのかなどを学び、アンカンファレンス※2を通してマインドセットの体感を行っていました。大学生なども参加していましたが、聴講するのではなく、参加者として意見を求められるディスカッション型のプログラムというのも印象的でした」

※2 アンカンファレンス:講演者の話を聞くセッション形式とは異なり、参加者自身がテーマを出し合って自分たちで話し合い、参加者全員で作り上げるカンファレンス

6RegenerActionで登壇するFFI代表サラ・ロベルシ氏

例えば、FFIの教育プログラムのひとつにプロスペリティ・シンキングというものがある。人間主体だったこれまでのデザインシンキングから脱却し、全ての生物のニーズを満たす世界を設計するために人間と地球の両方を中心において考えるアプローチだ。

「あるアンカンファレンスでは、最初にこのプロスペリティ・シンキングについての説明があり、マインドセットをしてから、議論に入っていました。FFIは新しい考え方をきちんと言葉に落とし込み、それを学べる機会をきちんと教育プログラムに落とし込んでいるのが、強みになっていると思います」

7ワークショップの様子

学びも多かった一方で、日本での課題も見つかったと富田はいう。

「一番大きな違いは人口です。人口2,000人のポリカでやっていることを、人口1,400万人の東京にそのまま持ってきてもうまくいかない部分があるでしょう。ポリカの場合は地方の領域で文化や食事、環境を再活用していますが、東京のようなダイバーシティ溢れる都市で、地中海食のようなパッケージングをするのは難しい。一方で社会実装をするための拠点やコミュニティを生み出すことは、TFIの活動でも可能だと思いました。またTFIで掲げている教育や社会実装はリジェネラティブと非常にマッチすると考えています。教育を通して、人々の考え方やマインドセットを変えていくことで自分たちの行動が変わり、リジェネラティブな社会を作っていくことにつながると感じています」

TFIでは今回の視察を受けて、今後FFIのネットワークと連携し、海外のリジェネラティブの識者を招致したプログラム作成の可能性なども視野に入れている。世界中にネットワークを張り巡らせるFFIとの取り組みを今後もお届けしていきたい。

 

富田 龍彦
Tatsuhiko TOMITA
Tomita
福岡県福岡市出身。日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て、九州大学大学院理学府物理学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。2018年より東京建物株式会社へ入社し、事業計画・オフィスビル運営管理・テクノロジー実装推進に従事。2021年より一般社団法人TOKYO FOOD INSTITUTEに事務局として参画し、学生達と社会課題を解決するアイディアを考え、社会実装する「Future Food Innovation Workshop」の企画・運営、若手料理人のコンテストを実施し、独立開業を支援する「チャレンジキッチン」の運営業務に従事している。

 

<文 / 林田順子>