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食・農のスタートアップを、どう社会実装へつなぐのか TOKYO SUTEAMの実践から見えた、フードイノベーション支援のかたち Food
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食・農のスタートアップを、どう社会実装へつなぐのか TOKYO SUTEAMの実践から見えた、フードイノベーション支援のかたち

東京都は「Global Innovation with STARTUPS」が掲げる「10×10×10(5年で東京発ユニコーン数10倍、東京の起業数10倍、東京都の協働実践数10倍)」などの達成のため、スタートアップを支援する事業者を協定事業者として選定する、スタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」を展開。

一般社団法人TOKYO FOOD INSTITUTE(TFI)は、フード領域に特化した支援機関として令和6年度の協定事業者に選定され、Basque Culinary Center(BCC)の共創プロジェクトであるGastronomy Open Ecosystem(GOe)とCIC Institute(CIC)と共に活動してきた。

約1年半のプログラムを通じて、どのような成果が生まれ、フード領域のスタートアップ支援に何が見えてきたのか。TFI事務局長の沢田明大と、事業推進を担った渡部美和に、TOKYO SUTEAM採択事業者としての取り組みを振り返ってもらった。

 

食や農を起点としたイノベーションの可能性は広がる一方、スタートアップには、食品としての安全性の検証やプロダクト開発、幅広いバリューチェーンとの接続など、事業化に向けて乗り越えるべき課題も多い。

「我々としてはスタートアップの海外・国内向けのアクセラプログラムを行うとともに、ピッチイベントやシンポジウムを通じて、研究者やシェフ、企業、投資家が交わる場や共創機会の創出などのコミュニティ形成、若者や学生への啓蒙や教育プログラムなどを主な支援内容としました」(沢田)

 

三者の強みを掛け合わせ、スタートアップごとに支援を設計

 

この事業を支えたのが、TFI、GOe、CICによる三者連携だ。TFIはフード業界との接点や食に関する知見を持ち、CICはスタートアップやイノベーション支援に強みを持つ。そしてGOeはBCCが有する食の研究・調査機能や国際ネットワークを有する。それぞれの強みを活かし、海外プログラムはTFIとGOe、国内プログラムはCIC、コミュニティ形成はTFIとCICと役割を分担した。

「食・農は原材料や環境問題から、ITやシステム関連まで、食・農にまつわるスタートアップは多種多様で、それぞれが持つ課題やフェーズも異なるため個社支援はオーダーメイドが必要になります。食に強いTFI、スタートアップ支援に強いCIC、そしてグローバルな食農ネットワークを持つGOe。それぞれが異なるコミュニティを持っていたからこそ、スタートアップごとに必要な支援者をつなげることができたと考えています」(渡部)

 

グローバル展開を支援する海外アクセラレーションプログラム

 

なかでも力を入れたのが海外アクセラレーションプログラムだ。
今やフード・アグリ系スタートアップにとって、海外市場への展開は重要な選択肢のひとつになっている。だが、現地ネットワークの必要性、市場や食文化、生活環境への理解、渡航コストなど、多くの障壁が存在している。

「これまでもTFIではピッチコンテスト受賞者へ、スペイン・バスクにあるBCCでのグローバル大会出場やメンタリングセッションなどのための渡航をサポートしてきましたが、今回、東京都からの協定金があることで、これまでの1社から4社、1度から2度の渡航へと枠を広げての支援となりました。スタートアップは費用サポートを受けて海外渡航し、現地でGOeによるメンタリングセッションを受けることができたのです。これはTFIとのネットワークだから実現できましたし、実際に現地へ行き、反応を見ながら次に打つ手を考えられる機会は、スタートアップの可能性を大きく広げることになったと考えています」(沢田)

Img 9144TFI主催のピッチ受賞者が参加した、サンセバスチャンでのピンチョスワークショップの様子

例えば、ホットチェーンを維持した温蔵自動販売機を手掛けるWada Food Techは、日本では弁当での展開を主軸としていたが、食文化の違う欧州で何を販売するべきかを模索していた。

「そこでBCCの学生にメニューアイデアを提案してもらう機会を設けました。リゾットやグラッパなど、さまざまなアイデアが寄せられ、新しい欧州展開でのヒントになったようです。」(沢田)

その後Wada Food Techは事業展開を進め、アメリカ・ニュージャージー州にショールームを開設、イギリス・オーストラリアにも進出。また、7億5000万円の資金調達も実現している。

日本酒由来の蒸留酒「浄酎」を手掛けるナオライ株式会社は、新しいジャンルとなるこの商品のポジショニングを模索していた。そこでBCCのシェフパネルによる官能評価とプロジェクティブマッピングを実施。飲み方の提案やカクテル活用など、現地の視点から商品を捉え直し、海外での販売戦略を検討する機会となった。
その後、2025年にはロサンゼルスのディストリビューターと独占輸入契約を締結している。

Img 9192GOeによるメンタリングセッションの様子(ナオライ株式会社)

 

シェフとの共創がフードスタートアップの社会実装を後押し

 

一方でCICとの連携による国内アクセラレーションでは、各社の課題に応じたメンタリングや企業や専門家へのマッチングを実施。なかでも特徴的なのが、東京建物八重洲ビルのイノベーティブキッチン「8go」を活用した取り組みだ。
多種類の海藻栽培を手がけるシーベジタブルに対しては、8goをプロデュースする料理人・野田達也氏と連携し、同社の海藻を活用したメニューへの実装を支援した。

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8goをプロデュースする野田シェフ考案、シーベジタブルの海藻を使ったメニュー(Photo: Bungo Kimura)

「シェフとの共同作業と聞くと、ただのメニュー開発だと思われがちですが、TFIで目指しているのは、メニュー開発だけではありません。現場での使いやすさを考えたフィードバックなどを行い、それを受けてスタートアップが商品を改良する。フードテックのスタートアップのプロダクトが、世の中に実装されていくために必要なフェーズを支援することで、将来的な売り上げの向上につながるのです。事業成長にシェフが貢献し得るということは、なかなか伝わりにくいのですが、我々はシェフの存在が非常に重要だと考えています」(渡部)

また実証を重ねるなかで、東京建物やGIC Tokyoとの接点が生まれ、その後、2026年3月には東京八重洲の常設飲食店「シーベジスタンド」の展開にもつながっている。

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東京・八重洲にあるシーベジスタンド外観、一階はラーメンと海藻居酒屋、二階がワークショップもできるR&D

 

約1年半の実践から見えた、成果とこれからの課題

 

「フード&アグリ領域は本当に幅広く、事業フェーズも課題もそれぞれ異なります。ただ、共通言語として“食”があることで、遠い領域の人たち同士でも対話が生まれます。その接続点を作れることが、TFIらしさではないかと思います」(沢田)

約1年半の期間を通じて、さまざまな支援活動が可能になった一方、フード領域ならではの課題も見えてきた。食品は安全性の検証やプロダクト開発に時間を要するケースも多く、PoCから実サービスの提供、社会実装へと進むには、より長期的な支援が必要になる。

「協定事業の期間が2年、3年とあれば、長期的な支援やチームビルディングなど、もっと支援の可能性が広がるという思いもあります。ただ、アウトカムに照準を当てながら、そこに至るプロセスには事業者の裁量が認められているため、スピード感を持って取り組むことができました」(沢田)

「TFIは日頃の活動の成果を定量的に示すことの難しさも感じていました。TOKYO SUTEAMでは約1年半できちんと成果を出すことが求められ、KPIを設定して成果を可視化することで、集中的に支援に向けて動くことができました。活動にメリハリをつける良い機会になったと感じています」(渡部)

協定事業の終了後も、今回構築したネットワークや支援の仕組みをどう継続していくかが次のテーマとなる。

「例えばBCCがどんなスタートアップアクセラを行うのか、また全国の学生を対象にしたイベントYouth Summitのように協定金があったからこそ開催できたイベントもありましたし、今後活用できるフォーマットができたことが収穫と考えています。金銭的な問題がクリアできれば、すぐにでも支援できる状態になっているのは、すごく価値あることだと思っています。今後は今回のノウハウを活かしながら、継続したスタートアップ支援に繋げていきたいと考えています」(渡部)

TOKYO SUTEAMを通じて蓄積されたのは、個々の成果だけではない。スタートアップのフェーズや課題に応じて、シェフ、研究者、企業、投資家、海外の専門家などをつなぎ、社会実装まで伴走するためのネットワークとノウハウもまた、今回の取り組みから得られた成果である。TFIは今後も、この基盤を活かしたフードスタートアップ支援を続けていく。

 

沢田 明大
Rocky SAWADA

Rocky San
北海道帯広市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、東京建物株式会社にて、住宅事業、米国駐在を経て、国内外不動産クロスボーダー取引を担当。2021年より、サステナブルのその先“リジェネラティブ”な社会を東京から実現するため、FOODを軸とした共創とイノベーション創出をサポート。2024年には、スペインBasque Culinary CenterのGastronomy Open Ecosystemの海外初拠点として、東京八重洲にGastronomy Innovation Campus Tokyoを開設。2026年には、新Tokyo Food Labにて地方とシェフとの共創を開始。

 

<文 / 林田順子>