MENU
【西原史郎氏】料理人の視点で地域食材に新たな価値を──TOKYO FOOD LABで始まる「食の旅 SHOKU-TABI」 Food
Innovation

【西原史郎氏】料理人の視点で地域食材に新たな価値を──TOKYO FOOD LABで始まる「食の旅 SHOKU-TABI」

2026年8月、東京建物の食のイノベーション拠点「TOKYO FOOD LAB(TFL)」が京橋から八重洲へと移転。新拠点の第一号プロジェクトとして始まったのが、ぐるなびとの共創による「食の旅 SHOKU-TABI」だ。地方自治体と若手料理人コミュニティ「CLUB RED」のシェフが連携し、地域の食材や食文化を期間限定のレストランで紹介する。その構想をぐるなび執行役員兼食と観光事業部長の西原史郎氏に聞いた。


地域が持つ価値を十分に伝えるための拠点が始動

 

ぐるなびは総務省の地域活性化起業人制度を活用し、以前から自治体へ社員を派遣してきた。地域の食や観光への取り組みを進めるなかで、地域が持つ価値が十分に伝わっていないことを課題と捉えていた。一方、東京建物側にも、都市が消費するだけの場所になっていることに問題意識があったという。

「地域にはいいものがたくさんありますが、それが届いていない。東京でその価値を伝え、分かっていただいて、消費していただく。このシステムをどうしたら作れるだろうという話をしていたところ、TFLの移転構想を伺い、お互いの強みを活かした仕組みが作れるのではないかということになりました」

ぐるなびが主催する若手料理人のコンペティション「RED U-35」で優秀な成績をおさめた料理人と、歴代の審査員が集うコミュニティ「CLUB RED」。ぐるなびでは以前から、CLUB REDのシェフと連携し、地方の食材や生産者を訪ねるツアーに取り組んできた。

「ただ、それぞれのレストランで食材を使うことはありましたが、地域の食材を集めて、作品としてコースで提供する場がなかったんです」

TFLは移転にあわせ、厨房設備や客席を拡充した。この拠点で地域の食材をCLUB REDのシェフがコース料理に仕立て、その土地の価値を伝える。同じ地域の同じ食材でも、料理人が変われば表現は変わる。来場者はそれまで知らなかった地域の食材や食文化に出会い、生産者や自治体も、料理人の視点を通じて食材の新たな可能性に気づくことができる。

Main
TOKYO FOOD LAB

SHOKUTABIの第一弾は、鹿児島県徳之島町。東京・人形町の「ars(アルス)」のオーナーシェフ髙木和也氏と、京都・嵐山の「MUKU」の料理長、加 龍太氏が現地を訪れ、出会った食材をそれぞれコース料理に仕立てあげた。

「地域活性化起業人制度を活用して、過去含め我々は20エリアで活動を行ってきました。その中で徳之島は、健康長寿や合計特殊出生率の高さでも注目を集めており、そうした特徴と食をうまくつなげられないかと思い、選びました。参加するシェフは、現地ツアーに参加した多くのシェフの中から、実際に話をして、どのような作品を作れるかなどを考えながら決めています」

6c8148ae 4981 4845 801a 0ea7c374de56徳之島視察の様子

 

料理を提供するだけでなく、地域に還元できる仕組みづくり

 

こうした企画の土台にあるのが、地域との信頼関係だ。ぐるなびの担当者は各地へ継続的に足を運び、現地の生産者と関係を築いてきた。地域活性化起業人制度を通じて自治体に派遣された社員も、自治体と連携しながら地域の課題に取り組んでいる。

「民間企業だけで地域に入って、生産者の方に『使わせてください』とお願いしても、『どこの誰だ』と言われてしまい、なかなか受け入れてもらえません。我々は自治体の名刺も持ち、自治体の方と一緒に地域の課題に取り組んでいる。だからこそ、地域の方の信頼を得られるのだと思います」

こうして築いた信頼関係を深めていくうえで、西原氏が重視するのが、地域に継続して足を運ぶことだ。

「会う頻度は絶対に大事だと思っています。最初は警戒されることも多いのですが、継続的に訪れて、一緒に飲んで、食べて……と信頼関係を作っていく。それと同時に、単発のイベントではなく、定期的に仕入れて、ちゃんと消費する仕組みをつくることも重要だと思っています」

このプロジェクトは、料理を届けるだけで終わらないと西原氏は語る。東京で生まれた料理を地域へ戻し、地元でも提供できる形にすることを構想している。

「TFLはラボ機関でもあるので、作ったメニューを東京で消費するだけでなく、地元に戻すことが大切だと思っています。例えば道の駅でお弁当のように手軽に食べられる形に改良して、地元のおじいちゃん、おばあちゃんにも味わってもらえるようにしたり。今後は色々とチャレンジしたいと考えています」

若手シェフにとっても、食材の知識を増やすだけでなく、その土地の風土に根ざした食文化や、生産の背景を学ぶ機会となる。西原氏がもう一つ重視するのは、地域が抱える課題を知ることだ。

「地域の食材は、まさにテロワールの世界だと思っています。その地域に根付く食文化を学びつつ、食材を知っていただきたい。また、シェフたちには地域における課題も明確に理解してほしいと思っています。担い手が不足しているなかで、どう支援していくのか。地域にお金を生む仕組みを、一緒に考えていきたいと思っています」

産地での発見を料理につなげるうえでは、スピード感も大切にしている。現地ツアーからメニューづくり、レストランでの提供までは、およそ3か月だという。

「産地でシェフが感じた熱が冷めないうちに、インスピレーションをもとに料理をつくり、お客さんに提供してほしいと思っています。こんな食材があるんだという発見を、熱量が高いうちに表現していただきたいんです」

Dadcf8f3 B27b 4f9c 8999 Acba418dbd33
徳之島視察の様子

 

一度きりの食体験で終わらせない、地域との継続的な関係づくりへ

 

実際にプロジェクトがスタートし、来場者からの評価は高いと西原氏は手応えを語る。徳之島町に続いて島根県西ノ島町をテーマにした企画も開催し、11月4・5日には、2027年に石見銀山の世界遺産登録20周年を迎える島根県大田市の食材を取り上げる予定だ。大田市は同制度による派遣先ではないが、徳之島の取り組みを知ったことをきっかけに参加が決まったという。

一方で、課題も見えてきた。

「食べた後に、その気持ちをどう持続していただけるか。そこから地域のものをどう買っていただき、お金が入る流れをつくるかを考えないといけません。今は点で終わってしまっているので、そこをどうつなげるかが課題です」

来場者からは、食事の余韻を後から振り返りたいという要望も寄せられている。提供した料理やペアリングの内容を後から見返せるよう、記録を残す仕組みも検討している。さらに、生産者や現地の料理人を訪ねるツアーも構想中だ。八重洲で知った味を、次は産地で味わう。地域に関心を持つ入口をつくった先に、実際に足を運ぶきっかけも用意していく考えだ。

こうした活動を進めるうえで、TFLが東京駅の近くにあることにも意味があると西原氏は話す。

「東京駅は、全国とつながるインフラの集結点です。その間近にTFLがあることは、全国の情報の拠点、発信基地にふさわしいと考えています」

全国とつながる立地に加え、食文化を育んできた八重洲・日本橋・京橋という地域の歴史も、この拠点で取り組む理由となっている。

「我々だけが儲かるのではなく、地域にお金が落ちる仕組みづくりを目指し、八重洲を起点にしながら、うまく仕組み化できればと思っています」

地域の食材を知り、料理として味わい、その土地や生産者への関心を深めていく。そこで生まれたつながりを、地域の収益や新たな仕事へどう結び付けるか。「食の旅 SHOKU-TABI」は、新しいTFLを舞台に、その道筋を探る実験を始めている。

 

西原 史郎
Shiro NISHIHARA

Profile
株式会社ぐるなび執行役員 食と観光事業部長
2018年に株式会社ぐるなびへ入社。地域活性化企画や観光関連事業、訪日プロモーションなどに携わる。現在は食と観光事業部長として、地域の食文化や食材の魅力を発信する取り組みを推進。料理人コミュニティ「CLUB RED」と連携した「食の旅 SHOKU-TABI」にも取り組んでいる。

 

<文 / 林田順子>