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【中村慎之祐氏 2/2】国内における食のスタートアップが抱える課題とは Food
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【中村慎之祐氏 2/2】国内における食のスタートアップが抱える課題とは

Tokyo Food Institute(TFI)ではこれまで、ピッチコンテストやトークセッションなど、食の未来を考える様々なイベントを実施してきた。規格外野菜等の粉末化を事業とする株式会社グリーンエース(以下、グリーンエース)は、2022年11月に行われたFuture Food ConnectではFuture Food賞を受賞し、2023年2月に行われたCulinary Action! On the Road by BCCのピッチコンテストでは優勝を果たした。このイベントでプレゼンテーションを行った、代表取締役の中村慎之祐氏に登壇の意義や、優勝後の変化について聞いた。

 

目次

  1. ピッチコンテストに登壇する意義とは
  2. TFIが開催したリアルイベントで広がった視座
  3. 日本のスタートアップ企業が抱える課題

 

ピッチコンテストに登壇する意義とは

 

2018年の起業以来、様々なコンテストに出場してきた中村氏はその意義をこう語る。
「まずはシンプルに我々に興味を持ってもらい、商品を買っていただくこと。そして課題を抱えている企業の方から『グリーンエースとだったら何かできるかもしれない』と思っていただくこと。この2つを我々は期待しています。現段階では弊社は十分な営業活動ができていません。WEBだけを見て問い合わせがくることもほとんどありません。一方でピッチのウエブ配信などで知っていただき、問い合わせがくることはあります。つまり、我々の事業内容や思いをしっかりと知っていただいた上で、何か一緒にできるんじゃないかと感じ取ってもらえる。そうしたPRの場として、コンテストは大きな役割を担っていると思っています」

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Culinary Action! On the Road by BCCでピッチに登壇する中村氏

 

TFIが開催したリアルイベントで広がった視座

 

なかでもTFIが開催した2つのコンテストは、また違った意義があったという。そのひとつがリアルでの開催であったことだ。グリーンエースの商品化が実現したのは、コロナ禍の2020年のこと。そのためオンラインイベントが主流で、試作品ができてからのリアルイベントは初の体験だった。

「Future Food Connectのときに、当社の野菜パウダーを練り込んだビスケットバーのサンプルを持って行き、ブースで試食をしてもらったのですが、とても気に入ってくれた方がいて、そのあと友人を連れて戻ってきて『これおいしいんだよ。俺ももう1回食べるから』って、何本も食べてくださった(笑)。ECサイトからお客様の感想をいただくことはありましたが、目の前で直接、生の感想を聞けたのはとても有意義でした。実はビスケットバーはロット数などの問題で商品化をするか悩んでいたのですが、この声がきっかけで量産化の話が進んでいます」

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グリーンエースの野菜パウダーを練り込んだビスケットバー「Vegimin Stick」


また、登壇の待ち時間でスタートアップ同士の横の連携が深まったのも収穫だったという。
「オンラインでのピッチイベントでは、登壇以外にコミュニケーションの時間を取ることがなかなか難しく、横のつながりが作れていませんでした。ところがFuture Food Connectでお会いした方とは、Culinary Action! On the Road by BCCで再会することができた。これはTFIのようにリアルでコンテストを開催していなければ、なかなかないことだと思います。彼らとは最近の動向など情報交換をしたり、お互いの苦労に耳を傾けて激励しあったり。いろいろな話をすることができただけでなく、より一層頑張ろうという刺激にもなりました」

もうひとつの意義が海外からの視点だ。Culinary Action! On the Road by BCCのピッチコンテストはプレゼンテーションから質疑応答までが全て英語で行われ、スペインのBasque Culinary Center(BCC)とイタリアを本拠地とするFuture Food Institute(FFI)が審査を行った。

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Culinary Action! On the Road by BCCのピッチにて質問するBCC、Future Food Instituteの審査員

「ヨーロッパの方々に英語で説明をするのは、とても特殊で大変な状況でした(笑)。一方で日本のビジネスモデルや我々の事業が、ヨーロッパでも通じるものなのか、ヨーロッパ向けにカスタマイズが必要なものなのかを窺い知ることができる良い機会となりました。この答えはまだ出ていませんが、我々の普段の事業内容を評価していただけたことがうれしいですし、今後の弊社の指針にもなっていくはずです」

Culinary Action! On the Road by BCCは各国で行われており、それぞれの地区の優勝者は、スペインで行われるグローバルピッチコンテストに登壇する。もちろん中村氏もその1人だ。
「まずは我々の技術が世界でどう評価されるのかが、純粋に楽しみです。またFFIやBCCの方々と安定的なリレーションを築くことができれば、新たなシナジーが生まれたり、海外への事業展開を検討する可能性だってあると考えています」

 

日本のスタートアップ企業が抱える課題

中村氏は今回のコンテストで他のスタートアップとコミュニケーションをとったことで、「みんなだいたい同じような悩みを抱えている」と気付いたという。

課題は大きく3つ。
1つ目は人的リソースの問題。営業も開発も、ブランディングも全て自分たちで行うため、人や時間が足りないという課題を多くのスタートアップが抱えている。

「2つ目はネットワーク不足です。例えば今回のように、ビスケットバーを量産しようと考えたときに、小ロットでも前向きに、我々のこだわりを生かして生産してもらうにはどこのメーカーに頼むのがいいのか。自分が1からドアをノックして交渉するのはとても大変なことだし、時間もかかります。我々はありがたいことに、企業の方から紹介をいただき、スムーズに話が進んでいますが、もっとネットワークがあれば、それぞれの課題を解決できる別の方法が見つかるかもしれない。とはいえ、これは簡単に解消できる問題ではないので、TFIのイベントなどに自ら参加して、ネットワークを広げていくことが大切だと思っています」

3つ目の課題は価格だ。
「自分で事業を始めて、改めて日本の食品はすごくおいしくて、すごく安定的に供給されていて、すごく安いことに感動しました。ただ、我々スタートアップが商品を作るとなるとロットが少ないため、安定して供給することができないうえに、どうしても価格が高くなってしまう。では価格を下げるために量産をすればいいのかというと、フードロスをなくすための事業なのに、大量に製造してロスを出すわけにもいきませんから(笑)。自分たちのECサイトで商品を販売している分には問題ないのですが、今後どこかの店舗で販売いただく際に、だいぶ原価率をコントロールしていかなくてはいけない。この壁はどこのスタートアップも感じていると思います」

TFIでは新たな食の価値を創出するため、ピッチコンテスト以外にも、スタートアップ支援や、食の未来を作る事業・人材育成との共創を積極的に行っている。例えば京橋のKitchen Studio SUIBAでは、企業やスタートアップの社会実装の場としての利用やポップアップイベントなども開催している。


「TFIのようなピッチコンテストやポップアップの機会を作り出してくれる。これはスタートアップの多くが求めていることだと思います。我々もまだまだネットワークが足りませんので、今後もTFIの活動を注視しながら、機会があればポップアップなどを開きたいと思っています」

 

中村 慎之祐
Shinnosuke NAKAMURA
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株式会社グリーンエース 代表取締役社長
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任助教
博士(農学)
1992年生まれ、山形県出身。2015年に野菜粉末化を用いたアイディアを東京農工大学のビジネスコンテストで発表、同年11月から農産物粉砕技術の研究を開始。研究の結果、色や香り、栄養成分を保持したまま農産物を粉末化することに成功。2018年に、農産物廃棄を削減するとともに生活者を豊かにすることを目指して(株)グリーンエースを創業。2020年に博士課程を修了し、事業を本格的に開始。
生産地で廃棄される規格外農産物を、新たな価値を持つ商品に生まれ変わらせるために、野菜をより手軽に摂るブランド「Vegemin」を2021年に立ち上げ、あらゆる生活者の野菜不足改善にむけて取り組む。また、粉砕技術を活用して、企業の食品残渣を新たな商品へと生まれ変わらせるアップサイクルに向けた事業を展開。

グリーンエース
https://greenase.jp/

 

<文 / 林田順子>