MENU
【中村慎之祐氏 1/2】独自の粉末方法でフードロス野菜を粉末化するグリーンエースの今と未来 Food
Innovation

【中村慎之祐氏 1/2】独自の粉末方法でフードロス野菜を粉末化するグリーンエースの今と未来

世界から注目を集めるスペイン・サンセバスチャンの料理大学Basque Culinary Center(BCC)と、Tokyo Food Institute(TFI)、Future Food Institute(FFI)の協働により、2023年2月、Culinary Action! On the Road by BCCが日本で初めて開催された。
新たな食の価値を創出する次世代の企業への支援を目的としたピッチコンテストでは、株式会社グリーンエース(以下、グリーンエース)が優勝に輝いた。

食領域の課題やスタートアップに精通したスペインとイタリアのプロフェッショナルが審査を行い、野菜という世界共通の素材を生かした技術であることや、BCCのメンタリングセッションにより、商品展開などに可能性を感じるということ等からグリーンエースを評価された。そこで代表取締役の中村慎之祐氏に、現在の取り組みや今後の事業展開について、話を聞いた。

 

目次

  1. 故郷のフードロス解決のために研究技術を応用
  2. 産業廃棄物処理の技術を応用した粉砕方法
  3. 大企業も注目する技術力の高さ

 

故郷のフードロス解決のために研究技術を応用

 

農林水産省のデータによると、日本で収穫される野菜は年間1300万トン。それに対して出荷量は1100万トンに留まっている。地域で消費される量を考慮したとしても、その多くは規格外野菜として廃棄されているのが現状である。グリーンエースは、これらの規格外野菜等を粉末化することにより、フードロスの削減を目指している。

Sub1
出典:グリーンエース プレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000071540.html

 

農産物の粉末化は、山形県・酒田市にあった母校が閉校になったことがきっかけだった。

「最後に行われたOB会に出席して、自分の育ってきた場所がなくなってしまう悲しさをすごく感じました。同時に地方の衰退も肌で感じて、自分に何かできることはないかと考えたました。その結果、山形の基盤産業のひとつである農業がもっと発展すれば、地域が活性化するのではないかと思い、在籍していた東京農工大学大学院で研究を開始。研究室や関連企業の協力もあり、規格外野菜の粉末化に成功にし、事業化が実現しました」

 

産業廃棄物処理の技術を応用した粉砕方法

 

現在、市場には多くの野菜パウダーが流通しているが、グリーンエースの独自性は野菜の粉砕技術にある。
従来品では野菜を乾燥させるための加熱処理に24時間以上もかかることもあり、その過程で栄養素や風味、色などが損なわれていた。そこでグリーンエースでは東京農工大学にて研究した粉砕技術を活用することでこの問題を解決する。

「熱風を当てながら、個体同士を衝突させるのですが、個体は衝突すると割れて小さくなり、より乾燥させやすくなる。表面が乾いてぶつかって割れ、乾いてぶつかって割れ……を繰り返すことで、非常に短時間で粉末化を可能にしました」

同社の技術を使うと100gの野菜が10gに濃縮されるだけでなく、生野菜の約80%の栄養成分を保持できる

「よく『どのレベルの野菜まで受け入れられますか?』とご質問をいただくのですが、押したら潰れてしまいそうなほど熟れてしまったトマトでも、少ししなびたり、虫食いのあるほうれん草でも、カビさえ生えていなければ、粉末化できますし、粉末化すれば2年間保存が可能です」

 

大企業も注目する技術力の高さ

当初は消費者向けの粉末販売事業をスタートさせたが、現在はその技術力に多くの企業が着目。各企業からのオファーによる案件も進行している。

「例えば、お茶の搾りかすやコーヒーかすなど、食品製造や加工過程で出る廃棄物に悩んでいる企業は多くあります。我々の技術でこれらを粉末化すれば、料理や製菓への活用も可能になります。また、栄養価を損なわないことから、レバーや魚の骨など高い栄養価を持つ食材の粉末化の研究も行うなど、事業領域は徐々に拡大しています」

現状はパートナー企業とジョイントベンチャーを形成し、粉末の販売から得た収益の一部を利益として得るというビジネスモデルを想定している。

「確かに事業成長を考えると企業との共創がシナジーを生みやすいのですが……。やはり僕たちが目指す最終ゴールは、我々の技術を使って、地方の農業を発展化させることにある。だからこそ企業向けのビジネスだけでなく、一般消費者に向けた自社商品の開発も行っています」

最新作は関西電力イノベーションラボや地域のJAと連携したドレッシングだ。規格外野菜や野菜の未利用部位を粉末化してドレッシングに生まれ変わらせた。ドレッシング15mlでミニサラダ約1皿分の食物繊維を摂取できることから「Salad on Salad」と名付けられたこのドレッシングは、現在クラウドファンディングも実施している。
また、地元を活性化したいとの思いから、生まれ故郷の酒田市に本社を置き、今春には粉末工場とパン工房を一体化したショップのオープンも予定している。

Campfire
出典:クラウドファンディングCAMPFIRE より(https://camp-fire.jp/projects/view/651666?list=watched


「地域の生産者さんから買った野菜で作った、野菜パウダーを練り込んだ野菜パンを販売します。実はこれまで、生産者の方から直接連絡をいただいても、量産のための設備やシステムが整っていないことから、お断りすることがすごく多かったんです。我々の当初の目的は地方の活性化ですから、生産者の方に負担を強いる事業にはしたくないし、商品のために野菜を育てるというのも違う。新店舗を作ることで、全国の生産者さんから野菜を受け入れることはまだ難しいですが、地元の規格外野菜は受け入れられるようになると思います。全国規模の受け入れに関しては、既存の物流システムをいかに活用し、どういう企業とパートナーになるのがいいのかなどを考えているところです。実際にいくつかの案件も動き出しているので、ぜひ我々の活動に今後も注目をしていただけるとうれしいです」

 

中村 慎之祐
Shinnosuke NAKAMURA
L1090188画像修正済1 1

株式会社グリーンエース 代表取締役社長
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任助教
博士(農学)
1992年生まれ、山形県出身。2015年に野菜粉末化を用いたアイディアを東京農工大学のビジネスコンテストで発表、同年11月から農産物粉砕技術の研究を開始。研究の結果、色や香り、栄養成分を保持したまま農産物を粉末化することに成功。2018年に、農産物廃棄を削減するとともに生活者を豊かにすることを目指して(株)グリーンエースを創業。2020年に博士課程を修了し、事業を本格的に開始。
生産地で廃棄される規格外農産物を、新たな価値を持つ商品に生まれ変わらせるために、野菜をより手軽に摂るブランド「Vegemin」を2021年に立ち上げ、あらゆる生活者の野菜不足改善にむけて取り組む。また、粉砕技術を活用して、企業の食品残渣を新たな商品へと生まれ変わらせるアップサイクルに向けた事業を展開。

グリーンエース
https://greenase.jp/

 

<文 / 林田順子>