【イベントレポート後編】異分野融合で新たな食の製品・サービスを”社会実装する”「Future Food Connect 2023」9月14日開催
2023年9月14日、異分野融合で新たな食の製品・サービスを”社会実装する”「Future Food Connect 2023」が虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーCIC内のVenture Café Tokyoで開催された。前編に続き、後編をお伝えする。
目次
本イベントのピッチコンテスト参加の意義
Future Food Connectでは、スタートアップの認知向上と事業支援の一環として、ピッチコンテストを開催。Tokyo Food Institute賞に選ばれた企業は10月にBCCが日本で開催する第2回「Culinary Action On The Road by BCC」に推薦される。
まずは昨年、推薦を受け、「Culinary Action On The Road by BCC」で優勝した株式会社グリーンエース代表取締役・中村慎之祐氏が登壇。
野菜を粉末化する事業を行う同社には、昨年、優勝賞品としてBCCでのバウチャーやグローバルピッチコンテストへの出場資格などが与えられた。
「おいしさを科学するBCCの人々の考え方、働き方はスタートアップにとって大変勉強になるものでしょう。また、それまで漠然と考えていたグローバル化についても、必要なことを学び、リアルな課題が明確になりました。ここまで実りの多い体験になるとは私自身思っていませんでしたので、スタートアップの方々は、ぜひこのチャンスを目指していただければと思います」と、ピッチコンテストの意義を語った。
食の社会課題を解決するスタートアップ9社が登壇
ピッチコンテストにはスタートアップ9社が参加。3名の審査員は各社の着眼点や、ビジネスとしての可能性などを評価し、まずは2社をFuture Food Institute賞に選出。
1社目として選ばれた、閉鎖循環式陸上養殖システムを開発・製造・販売を行なう株式会社ARKは、陸上で魚を養殖することで、海の生産活動を休ませ、海洋の保全活動につなげている。現在すでにJR東日本の無人駅や、雇用創出を視野に入れた障害者施設などに導入。海洋環境だけでなく、魚食による動物性タンパク質の課題解決、大手に依存していた食を小型分散化することによる生産・物流の改善などを視野に入れている。
審査員は「狭い日本で、いろいろな空きスペースを活用することができる。水産国である日本で、このようなイノベーションが起きるということに、とても未来を感じました」と評価。
もう1社は、おからを使った健康食品の開発・販売を行う株式会社オカラテクノロジズ。豆腐の製造工程で発生するおからは、年間約70万トンにものぼり、食用利用はたった1%。その多くが廃棄され、年間の廃棄費用は100億円にもなるという。そこでおからの栄養素に着目し、主食、惣菜、菓子と3つのカテゴリで自社開発した商品を展開。日本の伝統食であり、グローバル展開を狙えるブランディングなどが評価され、受賞となった。
Tokyo Food Institute賞に選ばれたのは、長崎大学初のスタートアップbooon。
世界規模でのたんぱく質不足に伴い、水産養殖の飼料原料価格も上昇し、利益を圧迫しているという。そこで魚粉とほとんど変わらないアミノ酸を有する機能性昆虫・ミルアームを食品廃棄物の餌で飼育。加工し、魚粉の代替品として飼料化した。
「今後のたんぱく質クライシスという社会課題を捉えて、サービス化したところ。また日本の一次産業として守るべき水産業につながっていること。そしてきちんとビジネス化できるモデルを構築しているところなどを評価しました」
他にもさまざまなアイデアを実現したスタートアップが続々と登壇。
クオンクロップ株式会社が提供する「M Yエコものさし」は、食品や農産物が環境に与える影響を数値で見える化。計測は商品単位で製造から廃棄まで細分化され、GHG(温室効果ガス)排出量などもスコアリングする。また、商品の改善の余地などの分析、自社サイトや他社のECサイトでの発信、それによる消費者の行動変容も記録し、生産者へのフィードバックも行っている。
様々な立場から食の未来を考えるクロストーク
隣接するカンファレンスルームでは、国内外の識者によるクロストークが開催された。
第一部ではFFIの深田正則氏、野村舞衣氏、そしてイタリアのボローニャからFFI JapanのDirectorを務めるAlessandro Fusco氏がオンラインで参加した。
今回はFFIが考える“Regenerative Approach”を紹介。13兆ドル規模の食産業はフードロスや食糧危機、廃棄物や農薬などによる環境汚染など、様々な社会課題を抱えている。そこで近年欧州を中心に広がっている考え方が「人間・地球中心設計」であるリジェネラティブだ。FFIでは現在、この取り組みを広めようと世界4都市でリビングラボを展開し、社会実装に取り組んでいる。日本では東京建物と連携し、京橋エリアで行われている。
またFFIではこれまで培った知見を日本で広めるための教育プログラム「Food&Climate Shaper Boot Camp」も開催。このイベントへの参加も呼びかけられた。
第二部では植物性油脂とたんぱく質のリーディングカンパニーである不二製油株式会社の富研一氏と、食品・料理構造からおいしさを可視化する研究を行う、宮城大学食産業学群の石川伸一教授が登壇。テーマは「食品企業開発者と大学食品科学者の融合からみる『おいしさ』の未来」。代替肉や昆虫食など新たな食材が脚光を浴びる一方、生理的嫌悪感を抱く人を満足させるおいしさとは何か。価値観が多様化する未来ではどんなおいしさが求められるか。おいしさの中でも人が本質的に感じる満足感にフォーカスした製品開発の裏側などについて語られた。
第三部のテーマは「これからの整う時間」。茶道家であり、日本茶にフォーカスした商品開発を行う株式会社TeaRoom代表取締役・岩本涼氏、瞑想や心身の変化に着目し、東洋のハーブやスパイスを使ったクラフトジンなどを展開するHOLONのプロデューサー堀江麗氏、日本茶や甘酒を吸う体験を提供するアートコレクティブ集団OCHILLのキルタワタル氏が登壇。モデレーターをグローカリンクの西川信太郎氏が努め、忙しい現代人が求める整う時間とは、日本の整う文化は外国人に受け入れられるかなどがディスカッションされた。
第四部はフランス料理店「リュミエール」のオーナーシェフ唐渡泰氏と、飲食店のプロデュースなどを手がける株式会社ケイオスの澤田充氏が「これからのシェフ」をテーマに登壇。未だ古い慣習の残る料理界をいかに現代の労働スタイルにフィットさせるか、シェフに求められるビジネス的視点や、ものづくりにおける多様性などについて話し合われた。
また、スタートアップの認知向上の場としてラウンジには、7社が自社商品を展示。登壇したやえやまファームや不二製油の商品の試食などもあり、参加者はそのクオリティの高さを体感したり、担当者に直接コミュニケーションをとるなど盛り上がりを見せた。
5時間にわたり開催されたFuture Food Connect2023では、食にまつわる様々な立場の人々が国や企業、職種を超えて意見を交わし、ネットワークを構築。
他にもTFIでは毎月Venture Café Tokyoで食産業の発展や新たな食の価値についてのイベントも実施。また10月19日にはBCCと協働したピッチコンテスト「Culinary Action on the Road by BCC」を開催。12月6日にはリジェネレーションをテーマにしたグローバルカンファレンス「RegenerAction Japan2023」も開催。こちらにもぜひ足を運んでほしい。
参加者の声
・インスピレーショントーク登壇者
これまで業界内のイベントに出たことはありましたが、今イベントは異業種の方や色々な立場の人が大勢いらして、様々な角度からのアイデアをいただくことができました。商品の価値や、我々の思いもしっかりと伝わったと思いますし、多分野の方への認知度向上にも繋がったと満足しています。
・出店者
食に関わる異業種の方とのネットワーキングを目的に出店しました。ネットワーキングはもちろんのこと、興味深いピッチ登壇者のお話も聞けて学びのあるイベントだと感じました。
・来場者
フードテックに興味があり、参加しました。食にまつわる様々な社会課題をいろいろな方法で解決するスタートアップのピッチを間近に見られたことと、スタートアップ以外にも立場を超えた様々な方のトークを聴くことができて意義のある内容でした。
<文 / 林田順子>