【外村仁氏 2/4】日本企業がスタートアップとつきあう時の心構え
世界に遅れをとっている日本のフードテックを加速化させるため、日本の大企業とグローバルのスタートアップを結びつける「Food Tech Studio – Bites!」をスタートした外村仁氏。約半年の活動の中で、さまざまな課題も見えてきたと言う。
大企業とスタートアップの架け橋に
私はスタートアップ側にいた時期もあれば、大企業側に身を置いたこともあるので、両者の気持ちが分かります。日本の大企業の悪気のない対応がいかにスタートアップをイライラさせているかもよく分かります(笑)。だから予測はしていましたが、それでも日本の食業界は世間で言われている以上に保守的でした。
フードテックで重要となるスピード感
例えば、日本の大企業とスタートアップの最初のミーティングを成功させるために、予め入念にアドバイスをすることが多いですね。そうじゃないと、1時間しか会議時間がないのに、最初の30分で延々と組織の説明をしようとしてしまう。日本企業同士なら許されるのでしょうが、ズバッと切り込んでハートにドキュン!みたいなことを言って、本論に入らないと話にならない。
フードテックのスタートアップが続々とできていますが、中には数ヶ月しか持たないところもいっぱいあります。彼らの時間は自分たちの時間の10倍価値があると思って、浪費をしてはいけない。自分は大企業、相手はベンダーなんて思っちゃダメで、もっとリスペクトして彼らの時間を大事にしないといけません。
Food Tech Studio – Bites!のイベントでもスタートアップの商品に注目が集まった。写真はYokai Expressのラーメン自動調理器
話をオープンにしたがらないところも、日本の大企業の動きを鈍らせる一因です。隠す理由として多いのは「株価に影響する」「独占したい」「コンプライアンスが」などですが、そもそもスタートアップは世界中のいろいろな会社に売り込んでいますから、そんな理由で隠したところで意味はないんです。逆に隠すと自分たちだけがやっている気になって、動きが鈍くなる。オープンにすると「言ったからにはやらないといけない」とスピードが上がります。
プロトコルの違いを認識する
ミーティングのときに、事前にお互いが想定して持ち寄ったアイデアというのは的外れなことも多い。むしろフリーディスカッションで出てきた意見を、しっかり掴むかどうかがミーティングでは大切。ところが日本の大企業は「社に持ち帰って相談します」「予算が厳しいかもしれない」となる。日本企業同士だと紳士的で真心があると捉えられるのでしょうが、スタートアップ側からするとやる気がないと誤解されたりする。なので、実行できるかどうかは一旦置いておいて、個人的に面白いと思ったら「大好きだから僕はやりたい!」と言ってくださいね、と事前にお願いするようにしています。
フードに限らず別の分野でもそうなのですが、日本の大企業とスタートアップがうまくいかないのは、プロトコル(慣習や儀礼)がずれているだけということも多い。それによる誤解の結果、日本の大企業とやりたくないと思ってしまったスタートアップは結構多いです。
だけど、誤解なきように言っておきたいのは、日本の大企業の方はやはり皆さん優秀だということ。プロトコルを理解さえすれば、スムーズにスタートアップとのコミュニケーションが取れるようになります。むしろ大きくて堅そうだと思っていた企業がスパッと切り替えたりして、筋のいい会社はこう言うものかと感心しました。
結局、日本では、大企業とスタートアップとの提携に関して、圧倒的に成功体験が少ないから、現場がまだ自信がないのかもしれません。ですから、小さなことでも成功体験を積んでいき、それを会社の中で大きくしてもらえれば、日本の大企業と組みたがるスタートアップも現れてくるでしょう。入れ替わり立ち替わり新しい会社が入って、日本が世界と戦える体になればいい。その第一歩がやっと始まったと思っています。
Food Tech Studio – Bites!
https://www.foodtech.studio/
外村 仁
Hitoshi HOKAMURA
東京大学工学部卒業後、戦略コンサルティング会社Bain & Companyで経営コンサルティングに従事。その後アップル社で市場開発やマーケティング本部長職などを歴任。陸路でヨーロッパに渡った後、フランスINSEADで夫人がMBAを取得する間主夫として毎日料理に勤しみ、翌年交代しスイスのIMD(国際経営大学院)でMBAを取得。
2000年シリコンバレーに移住し、ストリーミング技術のベンチャーGeneric Mediaを共同創業、$12Mの資金調達から売却までを経験する。その後First Compass Group を共同創業、2010年からはエバーノートジャパン会長を務め、NTT DoCoMoや日経新聞との資本・業務提携を推進しEvernote社のユニコーン化に貢献。またEvernote時代にはChief Food Officerという愛称でも知られる。
現在、スクラムベンチャーズ、All Turtles、mmhmm等でアドバイザーを務める。2020年秋にFood Tech Studio – Bites!を創設し、日本の大手食メーカーと世界のスタートアップによるオープンイノベーションを推進中。またSKS-Jの共同創設者とともに「フードテック革命」を日経BPより出版。全日本食学会会員。肉肉学会理事。総務省「異能ベーション」プログラムアドバイザー。
<文 / 林田順子>