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【外村仁氏 1/4】日本のフードテックを加速させる「Food Tech Studio – Bites!」とは Food
Innovation

【外村仁氏 1/4】日本のフードテックを加速させる「Food Tech Studio – Bites!」とは

フードテックという言葉を知っているだろうか。環境問題から、生産、調理、販売、ウェルネス……。食にまつわるあらゆることにテクノロジーを介在させるというもの。

この分野にいち早く注目をしてきたのがスクラムベンチャーズ パートナーの外村仁氏だ。2020年、新たな食の価値を提案する「Food Tech Studio – Bites!」をスタート。

「遅ればせながら、日本の大企業もようやく世界的なフードテックの波に乗り始めました」という外村氏に、今世界のフードシーンで何が起こっているのか、日本の食業界はいかに進むべきかなどを4回にわたり聞いた。第1回は「FoodTech Studio – Bites!」はなぜ生まれたのか、その背景を追った。

 

急速に変化するアメリカのフード業界

 

食に限った話ではありませんが、これまでテクノロジーが入ってこなかった分野に、新たな技術革新がもたらされると驚くような変化が起こることがあります。シリコンバレーでは10年ほど前からフード系のスタートアップが生まれたり、ものづくり系のサイトで科学的調理の話が出てくるようになりました。最初はスタートアップが主流でしたが、3〜4年前からは大手企業が続々と参入。

食とテクノロジーが融合することによって、遅れていたアメリカのフードシーンが急速に進化してきたのです。この流れはアメリカに留まらず、欧州やイスラエル、シンガポールなどでも生まれています。

 

世界から遅れることへの危機感

 

一方で日本の食文化は味、見せ方、流通……すべてにおいて世界的にもトップレベル。ところが日本では同様の動きが一向に見られない。これに私は危機感を抱きました。

iPhoneが発売されたときを思い出して下さい。日本のメーカーは「自分たちの技術のほうが進んでいる」とiPhoneを酷評しました。けれども現在の状況を見れば、その答えは明らかです。

食においても同じようなことが起きてしまうのではないかーー。

そんな危機感から「食&料理×サイエンス・テクノロジー」をテーマにしたグローバルカンファレンス「Smart Kitchen Summit JAPAN(SKS-J)」を2017年にシグマクシスの田中宏隆さんと岡田亜希子さんと立ち上げました。

2018年頃からはメディアにフードテックという言葉が取り上げられるようになり、2019年になると日本の大手メディアが主催するフードテックのカンファレンスが複数おこなわれるようになりました。そして、2020年はじめ頃からフードテックをテーマにした本や雑誌が複数出版され、人々にとってフードテックがより一層身近に感じられるようになってきています。

 

スクリーンショット 2021 09 20 11.52.532020年は雑誌特集や業界解説本まで出てきた「フードテック元年」 (出所:「Food Tech Studio – Bites!」提供資料

 

日本でフードテックが進まなかった理由

 

SKS-Jに来場する人たちと話をすると、現場はものすごく危機感を持っている一方で、トップが世界の変化の状況をあまり理解していないというのが、日本の大企業のパターンだと分かってきました。私は以前から、先進的なスタートアップと日本の大企業を繋ぎ、新しいビジネスを作ることを支援してきたのですが、それと同じことを食業界でもやってもらえないかというリクエストが日本の食の企業から増えてきました。

そこで2020年9月に「Food Tech Studio – Bites!」を立ち上げました。最終的には日本の大企業18社と3自治体が集まり、2021年から実際に80社を超えるスタートアップとの協業を目指したマッチングを開始しています。

 

スクリーンショット 2021 09 20 11.58.07「Food Tech Studio – Bites!」プロジェクト全体像。既存のパートナー企業と合わせ、広いバリューチェーンに跨る座組となっている(出所:同上)

 

日本の大企業は一般的に動きが遅いと言われていますが、たった3ヶ月でプロジェクトがかなり具体的に進んだ企業もあって、「日本企業もこんなスピード感でできるのか」と私がびっくりしました。

ただ私は「Food Tech Studio – Bites!」はひとつのきっかけでしかないと思っています。むしろ「あの企業がやっているなら、うちもやろう」と、フードテックに関心のある企業が自発的にアクションを起こして、フードテックの流れが日本で広がっていけば、私が種を蒔いた意義もあったと思っています。

そのような流れが生まれれば、食業界以外からもフードテックは注目を集めるでしょう。

 

スクリーンショット 2021 09 06 14.53.462020年9月 Food Tech Studio – Bites! ローンチイベントの様子

Food Tech Studio – Bites!
https://www.foodtech.studio/

 

外村 仁 
Hitoshi HOKAMURA
スクリーンショット 2021 09 29 11.30.32

東京大学工学部卒業後、戦略コンサルティング会社Bain & Companyで経営コンサルティングに従事。その後アップル社で市場開発やマーケティング本部長職などを歴任。陸路でヨーロッパに渡った後、フランスINSEADで夫人がMBAを取得する間主夫として毎日料理に勤しみ、翌年交代しスイスのIMD(国際経営大学院)でMBAを取得。

2000年シリコンバレーに移住し、ストリーミング技術のベンチャーGeneric Mediaを共同創業、$12Mの資金調達から売却までを経験する。その後First Compass Group を共同創業、2010年からはエバーノートジャパン会長を務め、NTT DoCoMoや日経新聞との資本・業務提携を推進しEvernote社のユニコーン化に貢献。またEvernote時代にはChief Food Officerという愛称でも知られる。

現在、スクラムベンチャーズ、All Turtles、mmhmm等でアドバイザーを務める。2020年秋にFood Tech Studio – Bites!を創設し、日本の大手食メーカーと世界のスタートアップによるオープンイノベーションを推進中。またSKS-Jの共同創設者とともに「フードテック革命」を日経BPより出版。全日本食学会会員。肉肉学会理事。総務省「異能ベーション」プログラムアドバイザー。

 

<文 / 林田順子>