第四週参加レポート「持続的な食卓(Regenerative Kitchen)」
「FOOD & CLIMATE SHAPERS DIGITAL BOOT CAMP JAPAN EDITION」 第四週参加レポート「持続的な食卓(Regenerative Kitchen)」
2022年4月25日から28日にBOOT CAMPの第4週が開催され、「持続的な食卓」に焦点を当てたセッションが行われた。参加者は移民・難民支援の事例を通じて、持続的な食卓の基盤となる人々の権利確保について学んだ。また、持続的な食卓に通じる具体的な事例として、以下3つの事例に触れた。1つめはフードサービスにおける多様なステークホルダーを巻き込んだ仕組みづくりについて。2つめは食品廃棄物を活用した持続可能でおいしい食品の研究・開発について。3つめは文化と持続可能性の架け橋となる伝統食の重要性についてである。
写真上:Food Alchemist Lab products, Future Food Institute, 2022
今週の学び
- 全ての人に平等の権利を:持続的な食卓の基盤となる人々の権利確保
- 多様なチャレンジャーを巻き込み経済的危機にあるレストランを救う
- 未来のレシピの開発:食品廃棄物の隠れた可能性
- ソーシャルフードガストロノミー:食を通じた社会課題解決
- 伝統食の再発見:食文化と持続性の関係
全ての人に平等の権利を:持続的な食卓の基盤となる人々の権利確保
包括的で持続的な食卓を考える時、環境が持続的かを気にすることが多いが、同時に人についても持続的かどうかを考える必要がある。この関係は現在の労働力不足に顕著に現れている。世界の54%の企業が、深刻な人材不足に直面している。この状況に対して、日本のように技術を発展させて対応する国もあれば、外部から新しい労働力を受け入れていくという方法もある。本ブートキャンプでは後者のアプローチについて、「経済の真の目的」をテーマに学んだ。登壇したのは、イタリアを拠点としてイタリアに来る移民・難民を対象としたオンライン教育プラットフォームを提供するMygrantの創設者であるChris Richmond氏である。学習アプリを通じて、移住時に課題となる現地の法律や仕事のスキル、また、起業に関する情報を提供し、移民の自立を可能にする。そして、企業との雇用のマッチメイキングプラットフォームにより人材不足の課題を解決している。Chris氏は、人材不足問題・移民問題に直面する現代で、全ての人に平等な人権を保証するための人材の再教育と雇用機会提供の可能性を紹介した。
また、移民問題のように困難な課題を賢く解決していくには、適切なことを適切なタイミングで、適切な人と共に適切な方向に進んでいくことが重要だそう。Chris氏は最終的な目標として、全ての人に平等な権利を提供することを掲げている。
多様なチャレンジャーを巻き込み経済的危機にあるレストランを救う
Covid-19の流行により、飲食サービス部門では経済的な危機に直面し、レストランは閉鎖され、新たな消費習慣が生まれた。同時に、デリバリー部門では、需要が急激に増大し、レストラン経営者とデリバリー事業者の双方にとって持続的な仕組みが必要とされている。イタリアの起業家、投資家でYou Can Groupの共同創設者兼CEOのAndrea Magelli氏は、これらの課題をチャンスに変えることを試みる。参加者は、Andrea氏が計画中のFood Theaterから、多様なステークホルダーを巻き込むことの可能性について学んだ。
Food Theaterでは、課題を抱えるレストラン・キッチンを再設計し、「多様な価値を生み出す」という意味で”Rainbow”という名を冠した”Rainbow Kitchen”に再構築していく。具体的には、リソース、知識、コンセプト、コンテンツ、アプローチを共有することで、課題を抱えるレストラン・キッチンと食のさまざまな起業家(FOOD CHARACTERS™:食のブロガー、生産者、クリエイター、シェフ、管理栄養士など)をつなぐコミュニティプラットフォームを形成している。
つまり、Food Theaterとレストラン・キッチンが提携することにより、経済的危機にあるキッチンは、FOOD CHARACTERS™と共に、ブランディングを実施したり、体験型料理ショーのホストとしてバーチャルフードホールに変化したりと一般的なレストラン経営だけではない新たな価値のあるレストランにアップデートすることができる。その中には、アートやデジタルコンテンツなどとのコラボが含まれており、食とは直接的に関係のない分野とのコラボにも挑戦している。
未来のレシピの開発:食品廃棄物の隠れた可能性
さまざまな食の技術を研究し、科学的な文献を調査し、廃棄物を見直すことは、未来のための新しいレシピを生み出す材料になる。
サステナブルで栄養価の高い未来のレシピを開発する、科学と料理が共生した施設Future Food Alchemist Lab(イタリア・ボローニャ)。Food AlchemistのマネージャーであるFrancisco Alvarez Ron氏が、これまでに大企業とともに社会課題の解決を目的として開発してきた未来のレシピを紹介した。同施設では新たな加工方法や既存の伝統食品の加工方法を、イタリアの食材にも応用することで、クリエイティブなレシピを開発している。参加者は食品廃棄物のアップサイクルから新たな代替タンパク質の開発、発酵による栄養価の向上など、未来のレシピの可能性を学んだ。
- 廃棄されるビーツ × 麹菌による発酵 = チューイングキャンディー
ビーツの表面を麹菌で発酵させることで、砂糖を添加することなくキャンディのような味に仕上げることができる。 - ザクロの皮 × アルコール = マッシュルーム
通常廃棄されてしまうザクロの皮を1-2週間ほどアルコールに浸し、洗い流した後、マリネやスープにして火を通すことでアルコールが飛び、マッシュルームのような食感に仕上げることができる。 - パイナップルの芯 × 熟成 = チョコレート・コーヒー・リコリスの味がミックスしたキャンディ
通常廃棄されるパイナップルの軸を黒ニンニクと同じ要領で、高温高湿下で熟成する(メイラード反応)ことで、食感を柔らかくし、複雑な味を作り出すことができる。
廃棄されるビーツ × 麹菌による発酵 = チューイングキャンディー
ソーシャルフードガストロノミー:食を通じた社会課題解決
社会が誕生した時から、食は社会的結束や社会活動と密接な関係にある。つまり、食を通じて社会課題を解決することで、未来の社会を豊かにすることができる。
そう話すのは、ONODERA GROUPエグゼクティブシェフで、ヴィーガンプロジェクトのメニュー監修・運営を行う杉浦 仁志氏である。ブートキャンプの参加者は、食について、彼が特に提唱している「ソーシャルフードガストロノミー」の重要性について学んだ。
杉浦氏は「料理人はもっと様々な分野で人を幸せにすることができる」と考え、現在の活動を始めた。環境保護に関する領域では、ヴィーガン食を全国1000カ所で提供するという活動で、日常食から健康と環境問題に貢献できる機会を提供している。また、水耕栽培野菜の開発、ロボテック、コンポストから育てる果物の研究など、料理人の枠を超えたテクノロジーを活用した取り組みにも積極的である。それ以外にも、佐賀県の地方創生を兼ねたお茶の観光(tea tourism)の提供や、教育の観点からアレルギーに対するヴィーガン食育や学生を対象としたプラントベース食育といった幅広い活動も行う。
杉浦氏が実践しているこれらの活動を通じて、参加者は食が与える価値とその可能性について触れることができた。杉浦氏の活動は、社会課題への貢献だけではなく、今後の食・料理人の可能性を広げるロールモデルとなる。
伝統食の再発見:食文化と持続性の関係
和食はユネスコの無形文化遺産であり、世界的にも注目されている食事である。健康的、というイメージが強い和食だが、地球環境に配慮されているか、という観点ではどうだろうか。
一般的な日本食については、健康面だけではなく、地球環境にも配慮された食事である、というデータが報告されている(参照)。しかし、生産・流通・輸送までを含めて和食を捉え直すと、自給率が高い米の肥料や、魚を漁獲する際の漁船燃料など、持続的ではない部分が明らかになってくる。農林水産省OECD事務次官の米田立子氏によると、日本における課題として、多くの日本人は、自分たちが食べている食事がどのように作られているかを知らない人が多い点が挙げられた。
一方で、伝統料理の中でも、秋田県の男鹿半島における海藻を使用した伝統料理(精進料理)は、環境保護の観点からも大きな可能性を秘めている。立命館大学食マネジメント学部の石田雅芳氏によると、男鹿半島の雲昌寺では、地域で多様な海藻が採れることから、海藻を使用した精進料理が伝統的に作られているそうだ。採った海藻は塩・味噌・醤油などで塩蔵されたり、ゼラチンを取り出して刺身の代わりとなったりする。石田氏は未来の食を考える際に、食べ物はサステナブルであるだけでは不十分であり、美味しく、心地よいものでなければならない、と話していた。
米田立子氏の発表資料より引用
今週のブートキャンプでは、未来の食を考える上で2つの視点があることを学んだ。1つめは、未来の食を発明すること。2つめは伝統を見つめ直し、掘り起こすことである。特に後者について、SDGsを考慮して「伝統的な食文化」の利点を考えた時、今週登壇していただいたFuture Food Alchemist Labや、男鹿半島における海藻料理の再発見など、伝統と技術を融合させる、という取り組みは一つの答えになるかもしれない。
<執筆/藤澤みのり>