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【荻野伸也氏2/2】変化を続ける飲食業界の未来とこれからの料理人が身につけるべきスキルとは Food
Innovation

【荻野伸也氏2/2】変化を続ける飲食業界の未来とこれからの料理人が身につけるべきスキルとは

当社団が主催する、若き料理人の独立開業をサポートする「チャレンジキッチン」プロジェクトで、アドバイスを行うパートナーに名を連ねる、シェフであり食のプロデュース、経営コンサルティングに携わる荻野伸也氏。近年フードロスが社会課題となっているが、荻野氏は10年以上前から自らが経営するレストランで規格外野菜などを取り扱い、問題解決に取り組んできた。さらに最近では仲間とリジェネラティブな農業に取り組むなど、食にまつわる環境問題に対する活動の幅を広げている。自らの気づきから様々なアクションを起こしている荻野氏に、これからの料理人に求められるものとは何かを聞いた。

 

目次

    1. 変化を続ける飲食業界の未来を考える
    2. これからの料理人が身につけるべきスキルとは

 

変化を続ける飲食業界の未来を考える

 

人材不足やIT化など、近年飲食業界には様々な変化が起きている。現在、フードロス削減のために新設した工場に通い、メニュー開発に携わっている荻野氏は、職人の減少が今後加速するであろうことを肌で感じ、近い将来、レストランは二極化していくと予想する。

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「あまり昔はこうだったと言いたくはないのですが、僕らが若い頃、飲食店では1日14時間、15時間働くのは当たり前でした。ただ、今は法律も厳しくなり、長くても10時間勤務が限界になってきています。

もちろん今も、昔ながらの勤務体系のところもあるかもしれませんが、それも向こう5年で是正されてくるでしょう。つまり料理人が働きたくても働けない状況に飲食の現場はなってきている。一方で、ここに来てから魚を3枚におろして、冷凍して送ってほしいというレストランからのオーダーもあることも知りました。では現場の料理人は何をするかというと、パックから魚を取り出して、きれいに並べてそれを出すだけ。人材不足もあり、誰が辞めても、誰が入ってもいいような料理しか扱えなくなってきているんです。

これは日本だけでなく、ヨーロッパも同様で、デザートは近くの店で買ってきて、カットして出すだけという店も多い。アルバイトだけで現場が回り、それを監督する料理人がいるかいないかぐらいの違いになってきているんです。僕らがやっていたような飲んで食べて1万円みたいなお店は今後はますます難しくなり、客単価3000円の店と、3万円の店の二極化が進むと僕は予想しています」

 

これからの料理人が身につけるべきスキルとは

 

高級店で働くことが料理人のステイタスであり、高い経験値を積める時代でもなくなってくるだろうと話す。では、調理師学校で外部講師の経験も持つ萩野氏から日本の教育システムはどう見えているのかというと、こちらも課題があると言う。

「まず、すべての講師ではないですが、基本的に経済感覚が高くないことが大きな問題でしょう。ものを作るということはお金を使うということで、ラップ1枚使うこともコスト。たった1枚のラップと思うかもしれませんが、そこまで厳しくやらないと利益は出ません。ところが現場に出たことがない講師も多く、彼らはコスト意識が希薄である傾向にあります。料理人を目指すのであれば、若いうちからお金のことは計算できるようにならないといけません」

では若き料理人はどのように学んでいくべきなのか。

「成長していくためには、やはり自分で興味を持って、勉強することが大事だと思っています。例えばプランターでもいいから自分で野菜を育ててみる。生き物が食べ物になるとはどういうことかというのを身をもって体験して、知見を広げていくことは必要だと思います。それと僕はフランス料理出身ですが、余っている野菜で惣菜を作ろうと考えたときに、フランス料理の手法だと、どうしても付け合わせの料理にしかならないことに気づいたんですね。『もっと視点を広げて、いろいろな料理で立ち向かわないと、お客様も自分たちも飽きてしまう』と、中華と和食とエスニックを1から勉強しました。今の日本の調理師学校は、入学するときに日本料理、フランス料理、中華料理などにコースが分かれていますが、他のジャンルも合わせて、包括的に勉強できる環境があるといいと思います。自分の軸となるものは持っていたほうがいいけれど、イタリア料理出身のシェフがエスニックを勉強すると新しい料理が生まれたりする。日本はそういうものを受け入れやすい文化がありますから、近視眼的にならず、いろいろな料理に目を向けるといいでしょう」

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自ら学び、食材にいかに付加価値をつけられるかが、これからのシェフは重要になってくると話す荻野氏自身も、現在付加価値をつけるべく勉強の日々を送っている。

「問題の先送りになるかもしれませんが、長期保存できる缶詰で面白いものが作ることができれば、フードロスの新たな解消法になるかもしれないと考え、缶詰の製造について学びながら、実験と失敗を繰り返しているところです」

フードロスをいかに解消するか。この問題に10年以上関わってきても、解決できないことだらけだと言う荻野氏。それでも挑戦を続けるのは、そこに面白さを感じているからだ。

「うちの子供にも言うのは、『人と違うことをやりなさい』ということ。多くの料理人がスターシェフを目指しますが、僕は逆に誰も見向きもしなかった食材で料理をすることの方が面白いし、フードロスを解消しながら1個500円でおいしいパテ・ド・カンパーニュをコンビニに並べるにはどうしたらいいかと考える方が、僕にとっては価値があること。僕は、料理人は、あるものを組み合わせて、新しい価値をつける編集者だと思っています。だからシェフだけがフォーカスされるのではなくて、自分の職務領域を確立した上で、お客様にも生産者にもきちんとリスペクトをしていくことが必要で、そんな料理人が増えてくれたら嬉しいですね」

 

荻野 伸也
Shinya OGINO
サムネ2
1978年、愛知県生まれ。大阪の調理師専門学校から、同フランス校へと進学。その後、有名レストランなどの料理長を歴任し、2007年「レストランオギノ」をオープン。2009年にシャルキュトリーの販売を始め、全国のレストランなどのプロデュースや、テレビ出演など多方面で活躍。現在はSAYUでフードロス解消のための商品開発などに携わる。

 

<文 / 林田順子>