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【小澤亮氏 2/2】マーケター・シェフ・科学者の3人が目指す、新しい食体験の創造 Food
Innovation

【小澤亮氏 2/2】マーケター・シェフ・科学者の3人が目指す、新しい食体験の創造

科学的エビデンス、調理、ITの融合により、食に新たな価値をプラスするdot science株式会社(以下dot science)では、無農薬栽培の食用バラ「YOKOTA ROSE」のブランディングを手掛けたことから、100%化学農薬不使用のエディブルフラワー専門店「EDIBLE GARDEN」を運営。2022年3月からは「美味しい花食体験」を創作する「エディブルフラワー研究所」も設立した。花の新たな食体験を提供したいという代表の小澤亮氏とシェフの田村浩二氏に研究所設立までの背景やエディブルフラワーへの想いを語ってもらった。

目次

  1. 既存の食用バラの3,840倍の香りを持つバラとの出会い
  2. 成分分析であらゆる業界に適応するエディブルフラワーへ
  3. 食用花の普及に必要となる食の体験
  4. 各分野のプロフェッショナルが共創し、新たな食の価値を創り出す

 

既存の食用バラの3,840倍の香りを持つバラとの出会い

 

小澤氏がエディブルフラワーに関わるきっかけとなったのは、横田園芸が手掛ける食用バラ「YOKOTA ROSE」についての相談を受けたことから始まる。
「当時の僕は、なぜ花を食べるのか、という感覚でした。そこで食用花について造詣の深いトップシェフであれば、具体的な案を描けると思い、当時『ティルプス』でシェフを務めていた田村浩二に同行してもらいました」
現地を訪れた田村氏はこれまでとは違う香りの高さに「この食材は世界で通用する」と確信。そこで「YOKOTA ROSE」がどれだけ優れているのか、成分分析をしたところ一般流通する食用バラに比べ、香りが約3,840倍もあることが分かった。
「ただバラだけを扱うよりも、色々なエディブルフラワーを取り扱うほうがニーズが高いこともわかり、EDIBLE GARDENを立ち上げました」

 

成分分析であらゆる業界に適応するエディブルフラワーへ

 

ブランド力を高めるため同社では農薬不使用のほか、様々なエビデンスを取得している。
取り扱う食用花の鮮度保持期間は平均的な食用花の2倍以上、取り扱っているビオラは全食材の中でもトップクラスのポリフェノールが含有されていること、菌数検査では一般的な露地野菜の1,000倍以上清潔なことなどが実証された。
「菌数検査は、洋菓子店からの問い合わせがきっかけとなりました。テイクアウトが多い洋菓子店では、花が生クリームなどに触れることにより、菌数が増えるリスクがあります。食中毒の危険が高まる可能性があるので、お菓子に食用花を使うことに躊躇されているとのことでした。そこで、菌数検査によって、我が社の食用花は清潔だと証明できたことで洋菓子店でも使っていただけるようになりました。トップシェフ、カフェ、ウエディング業界など、業態によって着眼点や改善要望が違うため、それぞれのフィードバックを参考にして分析に生かすことも多いですね」

もうひとつの特徴が障害者福祉施設との連携だ。
「障がい者の方々の仕事は単純作業をひたすら行うものが多いのですが、彼らのコツコツと作業を行う能力は、健常者よりも優れていると言っても過言ではありません。正しい栽培オペレーションと収穫オペレーションをきちんと組みさえすれば、世界的レベルの食用花を栽培することができる。実際に星付きのレストランでも、彼らが栽培した食用花を使用していますし、彼らのポテンシャルの高さを実証できたので、今後も色々な取り組みに協力いただきたいと思っています。」

 

食用花の普及に必要となる食の体験

 

だが、プロやメディアからの評価は高まる一方で、小澤氏の想像以上に一般消費者には浸透していないという現実もあった。
「成分分析で品質に優れていることが実証されたことで干物や餅は売り上げが上がりましたが、エディブルフラワーは一般消費者に浸透するまでには至っていません。僕が最初に『なぜ花を食べるのか』と思ったように、自分たちが食べてきた体験や記憶の土台がないものはおいしさに結びつきにくい。結局エビデンスだけではダメで、実際の体験が最も重要だということが分かりました」

そこで体験の機会を増やし、花食のカルチャーを発展させることを目的としたエディブルフラワー研究所を始動。「おいしい花食体験」のアップデートに取り組んでいる。

花のカクテルを開発する『花酒研究所』プロジェクトでは、トップバーテンダーの南雲主于三氏とコラボレート。7種類以上のバラの香気成分を抽出し、ウォッカに移したバラのスピリッツや、バラのカクテルを南雲氏のバーで体験することができる。

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4月からはECサイトなどで田村氏が監修したバラジャムの販売も開始。
「世界的にも素晴らしい食用バラの良さを活かすために、香りはもちろん、花弁の食感や味わいまで楽しんでもらうにはどうしたらいいかをまず考えました。その結果、全てを詰め込めるジャムがいいと思ったのです」(田村氏)
なかでもこだわったのが香りだ。国産バラの素晴らしい香りを引き立たせるにはどうしたら良いかをとことん追求した。
「もともと香りの相性が良く、甘味と酸味のバランスが良いリュバーブを組み合わせ、さらにバラの甘い香りを心地よく爽やかにするため、少量のレモンも加えました。ほかにはない香りとおいしさを楽しんで欲しいですね」(田村氏)
ほかにもお茶や砂糖、氷など、様々なプロジェクトが進行中だ。

バラジャム

 

各分野のプロフェッショナルが共創し、新たな食の価値を創り出す

 

dot scienceは、シェフ、マーケター、科学者という異なる領域のプロフェッショナルだ。それぞれが個人の事業を行いながら、dot scienceでは食の課題に一丸となって取り組み、新しい食体験を構築しようとしている。
「感動する食体験があってこそ、科学的なエビデンスとの相乗効果が発揮される。だからこそ、僕たちが新たな食体験を創作し、発信していくことで、未来の花食カルチャーを作りたいと思っています。そのためにはシェフ、マーケター、科学者、生産者がお互いにそれぞれの領域の「プロ」としてリスペクトし合う関係構築も大切です。目先の利益ではなく、本当に良いものを後世に残すための事業を行っていきたいと考えています」


エディブルフラワー研究所

公式サイト
https://eflab.jp/

Twitter
https://twitter.com/ryo__food

 

小澤 亮
Ryo OZAWA
Profile

マーケター。大学で建築を専攻した際に、建築家が抱えるマーケティングの課題に触れたことをきっかけにWebマーケターを志す。在学中はバイヤーとして3,000回以上のWeb取引きを経験。その結果、インターネット通販に可能性を見出して、「良いものをつくる生産者をITでPRして収益化すること」を目標に、Yahoo! JAPANに入社。4年間の経験を積んだ。独立後は、より横断的なマーケティングスキルを習得するために、BASE株式会社をはじめとするベンチャー企業や、地方の中小企業のマーケティングを監修。また、全国の250件以上の農畜水産の生産者を訪問しながら、写真撮影、コピー制作、Web制作などの情報発信を支援することで関係性を築いた。その後、2017年9月に.science Inc.を創業。「食べられる花屋EDIBLE GARDEN」「エディブルフラワー研究所」「アタラシイヒモノ」「THE OMOCHI」「成分分析ブランディング」など生産者をブランディングして、食材や加工品を販売する事業を展開する。

 

<文 / 林田順子>