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【小澤亮氏 1/2】小澤亮氏が考える、良いものをつくる生産者が持続するために必要なこと Food
Innovation

【小澤亮氏 1/2】小澤亮氏が考える、良いものをつくる生産者が持続するために必要なこと

農林漁業の市場規模の低迷や所得の伸び悩み等を解消するため、政府も6次産業化の推進などの対策に乗り出しているが、「販路を開拓したい、価値を高めたい、でもどうしたらいいか分からないという生産者の方は非常に多い」と語るのは、地域食材&活性化プロデューサーの小澤亮氏だ。元「ティルプス」のシェフで食事業を経営する田村浩二氏と、農業科学者の木村龍典氏と共に起業したdot science株式会社(以下dot science)では、食領域の社会課題解決にどう取り組んでいるのか。話を聞いた。

目次

  1. 生産者の努力が価格に反映されない現実
  2. 商品の優位性が可視化される「成分分析ブランディング」
  3. 新たな価値観を加えることで伝統食品の価値も向上
  4. 品質を正しく可視化し伝えることで生産者の持続可能な未来に貢献

 

生産者の努力が価格に反映されない現実

 

2014年から2016年の2年間、小澤氏は全国を精力的に巡り、250人もの生産者に会ってきたという。
「多くの生産者を訪問して感じた課題は『生産者の品質への努力は、必ずしも価格競争力に結びつかない』ということです」
こだわりを持って作っても、市場にその魅力が伝わっていないため、買い手は大量生産の安価な品物に流れてしまう。結果、安易な価格競争に巻き込まれて、品質への努力の継続が難しくなっているケースが多いという。
そこで小澤氏らは、良い食品に正しい価値をつけて流通させ、「良いものを作る生産者が持続する未来をつくること」を理念にdot scienceを立ち上げた。

 

商品の優位性が可視化される「成分分析ブランディング」

 

事業の柱となっているのが、科学的エビデンスとブランディングの融合による『成分分析ブランディング』だ。
「産地偽装問題などにより、食の信頼性が揺らいでいる昨今、科学的なエビデンスで品質を保証することによって買い手に『納得感』と『安心感』を与えることができると考えています」

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成分分析ブランディング ウェブサイトより

 

まず、おいしさを構成する要素である旨味や香りなどを科学的に分析し、一般的な商品との違いを数値化することで、その商品の優位性を表す。
「例えば漁業であれば、活け締めのひとつである神経締めを行う大森圭さんが処理した魚は、氷にドブ漬けしただけの魚に比べて旨味成分のイノシン酸が最大27倍多いことが分かりました」
これまではイメージや感覚に頼っていたおいしさの表現が、『27倍』と数値化されたことによって、買い手に知識がなくても実感として伝わるようになった。
ただし、闇雲に検査をすることはない。マーケティングやブランディング的視点と、優位差を出せるかどうかという視点も重視しているからだ。分析前には生産者のこだわりや商品の特徴を事前にヒアリングし、木村氏が効果的な分析項目を設定する。
「旨味成分といっても、グルタミン酸、イノシン酸、コハク酸など、様々な種類があります。例えば貝の旨みを示すコハク酸の分析を魚に行ってもあまり意味がない。通常、分析項目が増えるほど、金額が上がっていきますから、食材の背景をヒアリングしながら、いらないものは省き、必要なものを加えるオーダーメイドに近い形を取って、生産者の方々のコストを減らしています」

 

新たな価値観を加えることで伝統食品の価値も向上

 

小澤氏によると、成分分析ブランディングは「品質証明」のようなものだという。品質の良さの証明はできるが、それだけで消費者の購買意欲を刺激するブランディングができるかというと話は別となる。

そこで成分分析から一歩踏み込み、小澤氏らは加工品のブランドづくりにも着手している。
そのひとつが神奈川県・真鶴町にある干物屋「魚伝」だ。食習慣の変化などにより干物の売れ行きが年々下がり、干物製造業者が減少する中、魚伝の干物は、昔ながらの製法で作られ、百貨店の催事などでも人気の商品。5代目である青木良磨氏は、こだわりの干物を作る傍ら、海の環境や水産業の未来について関心が強く、過去に小澤氏が携わる「フィッシャーマン・ジャパン」※について問い合わせをしたこともあったという。

シェフである田村氏が伝統食である干物をアップデートする「アタラシイヒモノ」の構想を思いついた時、小澤氏が真っ先に思い出したのは魚伝の青木氏。すぐにコンタクトを取ったという。
実際に魚伝の干物を成分分析したところ、一般的な干物に比べ、旨みが約2倍、魚臭さが50〜73%少ないことが証明された。
青木氏も、干物という食文化を守りながらも新しいことにチャレンジしたいという思いが小澤氏、田村氏と合致し、干物の新しい食べ方を提案するブランディングに着手した。

「まずは、魚伝の伝統的な干物の製造工程を分解し、その一部をシェフの田村がフレンチの技術でアレンジした『アタラシイヒモノ』シリーズを立ち上げ、注目を集めました。さらにこの商品をメディアなどに情報発信する際、成分分析による品質の高さも訴求することで、成果を上げていきました」
結果、魚伝ではアタラシイヒモノだけでなく、伝統的な干物についても通販の売上が5倍以上に伸びた。現在は新たな工房の建築を予定しているという。


※フィッシャーマン・ジャパン

世界三大漁場の海をフィールドに活躍する三陸の若きフィッシャーマンたちが、地域や業種の枠を超えて、ホームのこの東北から日本全土へ、そして世界に向けて、次世代へと続く未来の水産業の形を提案していく最強のチームを結成。まずは自分たちが「真にカッコよくて稼げるフィッシャーマン」になり、未来の世代が憧れる水産業の形を目指す。(ウェブサイトより)
https://fishermanjapan.com/about/

Himonoアタラシイヒモノを使ったレシピ「Himonoで金目鯛ラタトゥイユ」

 

ほかにも昔ながらの製法で作る「笠原餅店」も売り上げが倍増。また、小澤氏が日本各地で見つけた食材で作るご飯のお供プロジェクトも新たに進行中だ。
「例えば日本各地で放置竹林が問題になっていますが、実は竹からメンマを作ることができます。このメンマで究極の「食べラー」を作ってみたら面白いんじゃないかとか、色々な可能性が考えられます。サステナビリティにつながるものや良い食材は、まずこのご飯のお供プロジェクトで紹介することで、新たな販路が広がっていくと思っています。分析から販売まで、生産者が抱える課題に対してトータルでのサポートを目指しています」

 

品質を正しく可視化し伝えることで生産者の持続可能な未来に貢献

 

生産者の想いが込められたこだわりの商品に対し、この商品の良さをどのように効果的に伝えるかという観点で成分分析をする項目を設定し、科学的分析により品質の高さを可視化する。さらにマーケティング観点、そしてシェフの観点からブランディングし、正しく価値を付けて伝えることで、適切な値付けに繋がり、消費者も納得して購入することができる。消費者の反応が見えると、生産者のモチベーションになるはずだ。
「職人技でしか出せない品質が評価されることは、食文化の多様性において素晴らしいことだと思っています。僕たちは本当に良いものが適切に評価されたうえで流通する経済圏を作って行きたいと考えています」


成分分析ブランディング
https://rebranding.science/

 

小澤 亮
Ryo OZAWA
Profile

マーケター。大学で建築を専攻した際に、建築家が抱えるマーケティングの課題に触れたことをきっかけにWebマーケターを志す。在学中はバイヤーとして3,000回以上のWeb取引きを経験。その結果、インターネット通販に可能性を見出して、「良いものをつくる生産者をITでPRして収益化すること」を目標に、Yahoo! JAPANに入社。4年間の経験を積んだ。独立後は、より横断的なマーケティングスキルを習得するために、BASE株式会社をはじめとするベンチャー企業や、地方の中小企業のマーケティングを監修。また、全国の250件以上の農畜水産の生産者を訪問しながら、写真撮影、コピー制作、Web制作などの情報発信を支援することで関係性を築いた。その後、2017年9月に.science Inc.を創業。「食べられる花屋EDIBLE GARDEN」「エディブルフラワー研究所」「アタラシイヒモノ」「THE OMOCHI」「成分分析ブランディング」など生産者をブランディングして、食材や加工品を販売する事業を展開する。

 

<文 / 林田順子>