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【イベントレポート】新たな食の価値を創出する次世代起業家支援「Culinary Action! On The Road」日本初開催 Food
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【イベントレポート】新たな食の価値を創出する次世代起業家支援「Culinary Action! On The Road」日本初開催

先駆的な料理の学術機関として世界中から注目を集めているスペイン・サンセバスチャンの料理大学Basque Culinary Center(BCC) が主催するCulinary Action! On the Road by BCC。2021年からスタートし、世界5カ国で開催されているこのコンテストが、2023年2月9日、東京・京橋のCity Lab Tokyoで開催された。日本での開催は今回が初となる。
新たな食の価値の創出を行う次世代の起業家支援を目的とした今回のコンテストは、イタリアのFuture Food Institute(FFI)とTokyo Food Institute(TFI)の協働で開催。三者が連携することにより、食に関連した日本のスタートアップと海外の機関とを繋ぎ、食領域の新規事業の創出促進の実現を目的としている。
当日は、事前に募集されていたスタートアップのファイナリスト5社がピッチを行ったほか、科学者・料理人・投資家など多様なステークホルダーによるトークセッションを展開。世界の食シーンで注目を集めたイベントの日本初開催ということもあり、 国内外から約80人が参加した。その模様をリポートする。

 

目次

  1. 三者が連携し日本でCulinary Action! On The Roadを開催する意義
  2. 国や業種を超えて食に関するステークホルダーが語り合う食の未来
  3. 世界を見据えた国内スタートアップによるピッチ
  4. 参加者の声

 

三者が連携し日本でCulinary Action! On The Roadを開催する意義

 

当イベントを共催する3団体による挨拶からスタートした。
最初に登壇をしたのはFFI代表のSara Roversi氏。FFIは食を中心とした社会課題解決につながるエコシステム構築を世界中の都市で手掛ける、世界最大規模のグローバルネットワークだ。
「アジアのグローバルハブである日本でコラボレーションや連携を行うことは、イノベーションを加速させることにつながるでしょう。実際にこれまでTFIとの協働により、コネクションは広がってきています」とイベントの意義を語った。

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続いてTFI代表理事の沢俊和が登壇。TFIは新たな食の価値を創出するため、スタートアップ支援や、食の未来を作る事業・人材育成の共創を積極的に行っている。
沢からはこれまでの活動実績が紹介されるともに、「FFIとの協働も3年目を迎えますが、これからも精力的に活動を広めるとともに、BCCとも連携し、新しい食の未来、Regenerative City※1を作り上げていきたい」と今後のビジョンが語られた。
※1「経済成長」「再生可能な地球環境」「人々の暮らしの豊かさ」がバランスした都市

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BCCのAsier Alea氏は、同校の独自性豊かな教育システムを紹介。同校では調理技術だけでなく、テクノロジーやオープンイノベーションなど、多角的な視点で食を学ぶことで、革新的なサービスや製品を創出している。Asier氏はバスクに食のイノベーションが起きた理由として、日本で技術を学んだ料理人たちが、バスクの料理にその知見を生かしたことを挙げ、日本がBCC誕生の一役を担ったと語った。また、「気候変動に際して必要とされるエネルギー、モビリティ、食の3分野のなかで、食は技術に加えて、歴史と文化が深く関わっている領域になります。世界の中でも技術と文化の両方を持つ日本は、これからの食の変化・イノベーションを牽引する存在になるでしょう」と食の未来における日本の可能性について言及した。

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国や業種を超えて食に関するステークホルダーが語り合う食の未来

 

国内外から食領域の識者が集った当イベントでは、ピッチコンテストに先駆けて、2つのテーマでラウンドテーブルも行われた。

1部では日本の企業文化や教育現場に加え、食領域のグローバルな潮流を知る3名が登壇。世界各地でレストランや人財事業などを展開するONODERA GROUPのエグゼクティブシェフ杉浦仁志氏、日本でのフードテックの認知拡大に貢献し、Smart Kitchen Summit Japan(SKS Japan)の創設にも尽力した外村仁氏、TFIの沢が、現在の日本の食産業の課題を議論。
杉浦氏と外村氏はともにグローバルのフードビジネスを熟知しているだけでなく、BCCの視察経験もあり、日本の料理教育の課題に言及した。

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外村氏は「日本の教育は技術者を育てることにフォーカスした、調理師の養成学校に留まっていると感じています。一方、BCCはサイエンスやテクノロジー、博士や研究者など、食の教育を多角的に捉えていて、社会実装やインキュベーションの面でも日本の料理学校とは異なる存在です」と語り、杉浦氏は「国や企業との協力体制をとってもBCCは想像以上に大きなスケールでした。またデータやコミュニティも駆使した、幅広い研究内容となっていて、これらが社会的なインパクトを与えています。また、日本は素晴らしい技術を持っている反面、ブランディングや社会発信を苦手としています。これからは社会に、その魅力をどれだけ発信できるかが重要でしょう」と問題点を指摘。一方、沢は「実は高い技術を持っている企業がBCCのプログラムで繋がることで、日本から新しい価値を提供できるのではないでしょうか」と共創の重要性を語った。

続いてのラウンドテーブルでは、グローバルな視座から見た日本のフードテックや日本企業をテーマに、FFIのSara氏、Eight Roadsのベンチャーキャピタリスト小山道子氏、White Star Capitalの長尾俊介氏、BCCのアントレプレナーシップマネージャーのAnder López氏が登壇。

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1部では発信力の弱さを指摘された一方で、2部では「グローバル企業が世界的視座を提供することで、日本企業のグローバル化は後押しすることができる」との提案もされた。また日本のフードテックに関しては「ビッグデータを駆使し、アフリカとの商談を進めるリンゴ農家もいます」とポジティブな意見が多く発せられたのが印象的だった

続いて行われたキーノートスピーチには、BCCのJuan Carlos Arboleya博士、Nabila Rodriguez Valerón博士、FFIのFood Alchemist LabマネージャーのFrancisco Paco Álvarez Ronが参加。サイエンス、経営、マネージメント、環境問題など、多角的に食に関わってきた3名が、ガストロノミーとサイエンスとの融合は、今後の食産業にどのような影響を与えるかなどを語り合った。

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世界を見据えた国内スタートアップによるピッチ

 

ピッチコンテストには、文化と食の関係を包括的に考察するビジョンと、未来に馳せるフードテックとガストロノミーの360度視点を併せ持った多数のスタートアップが応募。その中から選抜された5社が参加。今コンテストの優勝者にはサンセバスチャンのデジタルガストロノミーラボ「LABe」での1ヶ月の研修や、BCCのバウチャー、国内外のアカデミアや企業とのネットワーク構築の機会などが与えられる。

魚油から精製されることの多いDHAを藻から採取することに成功したのがAlagale社。海洋環境の保全だけでなく、食品残滓などの未利用資源を餌として活用することで、フードロスの削減や循環型培養にも寄与。プラントベースプロテインや調味料、サプリメントなどを提供している。

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日本酒の新たな可能性を示唆したのがNaorai社。日本酒は輸送時の繊細な温度管理が輸出障壁となっていたが、同社は日本酒を蒸留したスピリッツを開発することで、この課題を解決。国内消費量の落ち込みが顕著である日本酒の海外輸出を可能にし、日本の食文化の保護に一役買っている。

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greenase社は、フードロスの削減を目的に、野菜の色や香り、栄養やビタミンの含有量を保持した野菜パウダーの製造技術を開発。ビスケットやプロテインパウダーなど、汎用性の高さに注目が集まっている。

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世界初となる完全栄養食の味噌汁を開発したのがMISOVATION社。味噌は地域性が顕著な調味料で、日本には約1200種もの味噌があるという。これらの味噌を活用し、毎月異なる味噌を使ったプロダクトを提供。味噌の輸出量が増加傾向にあることから、海外での展開も視野に入れている。

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世界中で注目を集めている昆虫食。ecologgie社は、カンボジアと日本に拠点を置き、こおろぎパウダーを生産。カンボジアの食品残滓を餌とし、現地の農家に養殖の技術指導をすることで、現地経済を活性化するスキームも構築している。

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以上の5社が行ったプレゼンテーションを元に、FFIのSara氏をはじめ、BCCのメンバーが厳正な審査を行い、greenace社が優勝に輝いた。同社は今後、BCCのアドバイザーや研究機関と連携し、新たなプロダクトやサービスの構築を進めていく予定になっている。

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参加者の声

 

(ピッチ参加者)英語のスピーチが初めてでした。とても緊張しましたが、普段は海外向けの展示会に出展することもあるので、今後の出展時のトークやアピール方法を考えるのに良い機会になりました。

(ピッチ参加者)普段マレーシアにいますが、今回ビジネスで帰国した際に参加させていただきました。普段アジア圏にいるので、ヨーロッパの方々にプレゼンしたのは初めてでとても新鮮でした。訴求方法が違うことを学んだので、次回からの参考にしたいです。

(一般参加者)食に関する新規事業を立ち上げ中で、知人に誘われて参加しました。トークセッションやピッチを通して様々な視点を知ることができたほか、これから事業を法人化しようとしていたので、懇親会で様々なアドバイスをいただける良い機会にもなりました。

 

TFIでは今後も国内外と連携し、スタートアップの機会創出や、新たな食の価値についてのイベントを開催予定。今後の動向にも注目をしてほしい。

 

<文 / 林田順子>