【KNT-CT HD 後編】子どもたちの学びのきっかけとなる新たな食体験の提供を目指して
KNT-CTホールディングス株式会社(以下、KNT-CT)が新設した未来創造事業のメンバーは、社内公募により各部署から選出されている。佐藤氏も元々は修学旅行など、教育旅行の営業部門に在籍していた。
「教育旅行においては、体験は子どもたちの学びへと繋がります。コロナ禍で教育旅行の機会が減る中で、教育旅行以外でも新たな体験を通じて子どもたちの選択肢を増やしていきたいと思い、志望しました」(佐藤)
その佐藤氏が新事業として提案したのが「昆虫食」だ。
食糧危機対策として世界から期待される昆虫食
2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が食糧問題解決策の一つとして昆虫食を推奨する報告書を発表。2021年には農林水産省がフードテック官民協議会を立ち上げ、9つの議題のひとつに昆虫ビジネス研究開発を掲げるなど、昆虫食への関心は世界的に高まっている。一方で障壁となっているのが、昆虫に対する生理的嫌悪感だ。
「私は小学生の時に担任の先生がイナゴを食べさせてくれてそれがおいしかったという体験があり、昆虫食は食の選択肢のひとつに入っていますが、日本ではまだまだ日常的な食材ではないのが現状です。自らの食体験をもとに、子どものときから昆虫は食べられるものという認識を持つことができれば、将来の食の選択肢が広がるのではないかと思ったのが、開発のきっかけです」(佐藤)
現在食用として流通するさまざまな昆虫を調べた結果、流通量も多く、タンパク質、鉄分、マグネシウム、カルシウムなど昆虫の中でも栄養価が高いコオロギが選ばれ、KNT-CTの持つ企業ネットワークの協力を経てスナック菓子『旅する未来フード クリッピー』が誕生した。ネーミングには、「旅をすることで視野が広がるように、クリッピーを食べることで環境や食、地域創生などの社会課題を知るきっかけになってほしい」という思いが込められている。
地域創生とサステナビリティ実現のため国産にこだわる
現在国内に流通する食用コオロギの多くは、タイから輸入されている。だが未来創造事業では地域共創の観点から国産にこだわり、山形県の養殖場のコオロギを使用している。
「現在国産のコオロギは、牛肉に匹敵するほど高価なものです。ただ、国内需要が増えなければ、価格は落ちませんし、昆虫食も普及しません。経済を循環させるためにも国産にこだわることは大切だと考えています。また私たちは『旅する未来フード』が、子どもたちがSDGsに触れるきっかけになればとも考えています。近年、旅行においてもサステナビリティを重視させるお客様が増えており、おいしければいい、楽しければいいという時代ではなくなってきています。山形の養殖場は、同じ山形市内の工場から、本来捨てられてしまう茶葉を譲り受けてコオロギの餌にしていて、食品ロスにも貢献できることが決め手になりました」(中村)
また、包材には脱プラスチック素材を採用。全てを機械化するのではなく、梱包作業はあえて手作業にし、東京・小金井市の福祉作業所に委託することで、雇用創出につなげている。
食品でありながらコミュニケーションツールとしての役割を持たせているのも旅行業ならではの発想だろう。子どもに人気の3つのフレーバーを別添することで、昆虫食だけでない体験を作り出している。
「味を決定するために色々なフレーバーを試食したのですが、その時間が楽しかったという意見が出たんです。ならば、あえて味つけをせずに、ご家族や友人と、どの味がいいのかをわいわい話し合っていただくことも食の体験になると考えました」(佐藤)
今後は『旅する未来フード』をブランド化し、さまざまな昆虫食の提案を考えているという。また、未来創造事業においては、日本ワインを100mlのグラス1杯サイズにし、地域の複数ワイナリーのワインを飲み比べられるようセット販売する「わいんたび」もローンチ。ワインを通した地域活性化を狙う。
旅行会社ならではの新たな食の価値の創生が、今後どう広がっていくかに期待したい。
中村 達也
Tstsuya NAKAMURA
KNT-CTホールディングス株式会社 社長室 課長(未来創造事業担当)
1976年生まれ
入社以来スポーツイベントをメインにした法人営業を担当。
観光庁出向、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会出向を経て2021年10月より現職。
佐藤 優麗香
Yurika SATO
KNT-CTホールディングス株式会社 社長室(未来創造事業担当)
1995年生まれ
2018年 近畿日本ツーリスト首都圏に入社
修学旅行を始めとした教育旅行営業を担当。
「子供たちの選択肢を増やす仕事がしたい」という思いで公募を受け、2021年10月から未来創造事業に携わっている。
<文 / 林田順子>