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第一週参加レポート「エコシステム思考と未来の農業の可能性を探る」 Food
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第一週参加レポート「エコシステム思考と未来の農業の可能性を探る」

「FOOD & CLIMATE SHAPERS DIGITAL BOOT CAMP JAPAN EDITION」 第一週参加レポート「エコシステム思考と未来の農業の可能性を探る」

2022年4月4日〜4月8日にかけて、「FOOD & CLIMATE SHAPERS DIGITAL BOOT CAMP」の第一週目、「再生農業(Regenerative Farms)」をテーマとしたセッションが実施された。各分野の専門家から、農業食糧システムに影響を及ぼす現在の課題を学び、環境再生農業、カーボンマイナス農業、フィルム農業といった優れた事例に直接触れることができた。

 

今週の学び

  1. 再生農業 – 土壌の生物多様性を再生させながら、経済的にも持続する農業を実現する
  2. バイオ炭を用いた農業による食糧生産のカーボン・マイナス化
  3. 土壌と水を守る:フィルム農業の事例
  4. 優れた事例とエコシステム思考の融合:完全な再生のための手引き

 

再生農業 – 土壌の生物多様性を再生させながら、経済的にも持続する農業を実現する

 

リジェネラティブ農業(再生農業)とは、環境および社会への影響が少ない、または差し引きでプラスの影響を与える(ネット・ポジティブ)可能性があるとされる、代替的な食糧生産手段を意味する。欧州で再生農業の拡大を目指す気候変動対応型農家のネットワーク「Climate Farmers」は、再生農業を実現している例の一つである。

参加者は、再生農業への転換のための資金援助、農業のためのコンサルティングシステム、農家間のコミュニティサービスの提供というClimate Farmersの試みについて学んだ。特に、衛星画像などのデジタルツールを使用した分析や気候予測の精度向上により、土壌の生物多様性、二酸化炭素、栄養循環、水への影響など、環境に対する総合的な評価が可能となり、農家は経営予測を立てることができるようになった。また、収集した分析結果を金融機関に提示することで、目先の数年間の穀物出荷量ではなく、気候変動の影響を加味した10-20年のスパンにおける利益を評価し、融資を受けられるようになった。

海外に比べて農薬の使用量が多い日本では、こうした分析手法によって影響を適切に評価することが変化のきっかけになるかもしれない。

1「ぜひ、食べることを改めて考えてみてください。または、何か食べ物を育ててみましょう。農家の方が素晴らしい仕事をしていることを実感できるでしょう。」Climate Farmers, Philippe Birker氏

 

バイオ炭を用いた農業による食糧生産のカーボン・マイナス化

 

世界的に見ても、温室効果ガス(GHG)の主な排出源は慣行農業とされているが、その中でもカーボン・マイナスと呼ばれる農法が注目されている。カーボン・マイナスとは、二酸化炭素および二酸化炭素換算(CO2e)の温室効果ガスの排出量がゼロ以下であることを意味する。炭素の回収、隔離、回避により、環境に与える影響よりも多くの炭素を相殺することが可能となる。バイオ炭の埋設は、土壌を改良し、作物を生育させながら気候変動を緩和するための技術の一つである。

社会イノベーション、農業、農村政策の研究を行っている龍谷大学社会科学研究所(京都)の大石尚子教授より、バイオ炭を使った農業とカーボンマイナス食糧生産を実現するための可能性について学んだ。バイオ炭で育てられた野菜は「クルベジ」としてブランド化され、環境に優しい野菜として販売されている。また、エコブランドとしてクルベジシールを作成し、シールに企業の広告を掲載することでCSRの役割も果たしている。産官学民の連携が根付き、農村部では農家がバイオ炭による二酸化炭素の削減を行い、都市部の企業では再生農法に触れる機会が増え刺激を受けているそうだ。

3食品ごとのサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量
https://ourworldindata.org/food-choice-vs-eating-local

 

土壌と水を守る:フィルム農業の事例

 

再生農業の優れた事例として、「Imec(アイメック)」と呼ばれる土壌や水の役割を果たすハイドロメンブレンフィルム上で農作物を育てる技術、フィルム農法について学んだ。フィルム農法を開発した、メビオール株式会社取締役の吉岡洋氏がオンラインで登壇し、水不足や土壌劣化、地球温暖化などによるリスクの増大や大規模な食糧危機の解決策となり得る同技術の可能性に触れた。同技術は、水資源が乏しい中東(UAEを含む)、中国、アフリカ、ヨーロッパで実装が進んでおり、以下の効果が実証されている。

  • 適度に水分を調整して植物を育てることができる(乾燥していても、水分が過剰な場合でも一定の水のみフィルムを透過するため)。
  • フィルムの網目は水分子が透過でき、細菌・ウイルスが通過できないサイズであるため、植物が感染症にかかりにくい
  • 植物は通常よりも高い浸透圧で水を吸収するため、同時に糖分やアミノ酸などを吸収し、栄養価が高い野菜が収穫できる。
    また、現在は使い捨てとなっているフィルムを、生分解性の素材で作ることも検討しており、今後の発展が期待される。

2実際のフィルムを紹介する吉岡氏

 

優れた事例とエコシステム思考の融合:完全な再生のための手引き

 

私たちの身の回りにあるもの、例えば自然や人間関係、そして人体の機能は、実は多くの要素が調和したシステムの仕組みである。普段私たちは、課題や事象の一部分のみに焦点を当て、問題を分野別に分類してしまう傾向があり、長期的な解決策を考え出す妨げとなっている。

エコシステム思考では、あるシステム(都市、社会、セクターなど)の異なる要素間の相互作用を特定し、個々の総和以上のメリットが得られるようにアプローチを行う。エコシステム思考という大きな括りの中では、生態系もその一例である。エコシステム思考をビジネスに導入し、全体的な視野を持つことで、セクターや組織を超えてリソースを活用することが可能となる。同時に、すべては関係性の中にあることから、必然的に内部環境と外部環境の両方に注目するようになり、周囲の変化にも対応できるようになる。セッションでは、マルチステークホルダーの存在が重要となる取り組みが多く登場し、参加者は優れたエコシステム思考の事例に触れ、その大切さを実感することができた。

 

第二週は持続可能な「都市(City)」をテーマとしたセッションのレポートをお届けします。

 

<執筆/藤澤みのり>