【イベントレポート後編】新たな食の価値創造を目指し産官学が国・地域・業種を超えて集結「Future Food Connect」11月10日開催
2022年11月10日、未来×食をテーマとした「Future Food Connect」が虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーCIC内のVenture Café Tokyoで開催された。前編に続き、後編をお伝えする。
目次
スタートアップを支援するピッチコンテストを開催
Future Food Connectではスタートアップの認知向上の場として、14社による展示会場も設置。出展者はピッチコンテストに登壇し、TFIの沢俊和、株式会社ケイオスの澤田充氏、株式会社シグマクシス岡田亜希子氏、CIC Japan梅澤高明氏が審査を担当。そのなかから今回、受賞した3社をご紹介する。
今回選ばれたのは、日本酒の衰退を食い止め、酒蔵再生に取り組む広島発のスタートアップ、ナオライ株式会社。オーガニックの酒米を使った純米酒の醸造を広島中の酒蔵に委託。特許技術である低温蒸留を施し、樽熟成をさせることでウィスキーのような味わいを実現した「浄酎」を販売している。現在、1200社の日本酒酒蔵とパートナー契約を結んでおり、酒蔵ごとに違う味わいを楽しめることもアピールポイントとなっている。またオーガニック米の生産も推進することで、タガメなどの生態系の保護にも取り組む。審査員は「醸造の技術を持っている点、タガメなどの農業まで含めた循環を考えている点、日本の食文化を守るストーリー性、グローバルにアピールできる日本独自の食文化であること」を評価。
また今回は協賛企業も特別賞を用意。
エスビー食品賞に選ばれたのが、里山資源に付加価値を生み出している「日本草木研究所」。現在、日本で販売されているスパイスのほとんどが、そして流通する木材の60%が輸入に頼っている。そこで同社では、全国に原料のサプライチェーンを持ち、日本の間伐材や枝葉を使った完全国産のジンやスパイスなどを販売。市場価格の30〜50倍で買い取ることで、里山経済の活性化と環境保全にもつなげている。また、山椒や柚子に続く新たな国際競争力のある資源としての発信も行っている。
「日本の香辛料の価値を探究し、それを可視化していること。外に発信する長期的なビジョン、また森林保護など様々な課題に対してソリューションを展開しているところ」が受賞の決め手となった。
Future Food賞は、アプローチや概念から実装までを評価された2社に贈られた。
1社目はサプリメントで人気のDHAを藻から採取する技術を開発した「AlgaleX」。同社は水産資源の保護のみならず、未利用の泡盛の粕から抽出したアミノ酸で藻を培養することにより、フードロスの解消にもつなげている。また、成分分析の結果、DHAはサバの10倍、旨味は昆布の2倍を有しており、プラントベースシーフードとしての活用が期待されている。将来的には水産飼料の活用も視野に入れているという。
2社目は「greenase」が選出された。現在の日本では、規格外や価格調整のための農産廃棄物は200万トン、食品ロスによる廃棄は142万トンにものぼる。同社はその野菜を粉末化することで、資源として活用することを提案している。粉末化することで2年間常温保存が可能となり、栄養成分も凝縮。また、野菜の色や香り、栄養を残し、空気による酸化を抑えることも可能にした。プロテインやお菓子に混ぜ合わせるなど、それぞれの企業と商品の共同開発も行っていることが評価された。
食の未来を考えるクロストークは熱い議論に
隣接するカンファレンスルームではクロストークも開催された。
第一部では、Future Food Institute(FFI)の Japan Directorを司るAlessandro Fuscoより FFIが考える“Regenerative Approach”について紹介。FFIは2012年にイタリアで設立以来、食に纏わる世界中の社会課題を解くための教育と食の未来にイノベーションをもたらす変革のドライバーとして、多様な方々を巻き込むコミュニティを醸成し続けている。より公平な世界へ繁栄をもたらすエコシステム創りへ注力する為に、繁栄思考のマインドセット、統合的なエコロジーを描くアプローチ、分散化、そしてリジェネラティブなアクションの実践を伝える。その中で、世界中の大手食品メーカーから食に纏わる社会課題解決を目指した協働商品開発にかかる依頼に応じ誕生したプロダクトの数々をR&D責任者Francisco “PACO” Alvarez Ronが紹介した。
第二部では、宮城大学食産業学群の石川伸一教授と、食生活ジャーナリストの山本謙治氏が「エシカルフードの未来」をテーマに登壇。エシカル先進国である欧州と日本との概念やシステムの違いから始まり、環境に配慮していると見せかけるウォッシュ問題が日本でも広がるであろうこと、エシカルフードをどのように浸透させていくか、培養肉は畜産業を圧迫するのかなど、様々な角度からエシカルフードについて語り合った。
第三部のテーマは「地域から始める食・農業のDX」。株式会社 TeaRoom代表取締役社長の岩本涼氏、株式会社にほん代表取締役社長の藤田大次郎氏、株式会社グローカリンク取締役の西川信太郎氏が登壇。経済合理性に則った都市部での意思決定プロセスが地方で通用しない理由、どのように地域と寄り添うか、伝統的産業をDX化する上での障壁など、それぞれの立場から意見交換を行った。
第四部は「これからの日本の食文化を語ろう」をテーマに、グローカリンクの西川信太郎氏、評論家で「PLANETS」「モノノメ」の編集長を務める宇野常寛氏、日本草木研究所代表の古谷知華氏と木本梨絵氏が日本の食文化についてを議論。世界のトレンドや食育、居酒屋やラーメン、アルコールなど、議題は多岐にわたり、これからの日本の食文化のあり方について討論した。
5時間にわたり開催されたFuture Food Connect。食に関して様々な人々が国や企業、職種を超えて集まり意見を交わし、盛況に終了した。
TFIでは毎月Venture Café Tokyoで食産業の発展や新たな食の価値についてのイベントも実施。こちらも注目をしてほしい。
参加者の声
・ピッチ登壇者
大勢の方が興味を持ってくれたり、何か一緒にやりましょうと言ってくれたり多くの出会いがありました。また、参加しただけではなく賞を取れたことは注目されるので嬉しかったです。スタートアップは大企業と比べて埋もれてしまいやすいので、一つでも旗を立て、一つでも連携させていただける可能性が見えたことがよかったです。
いろいろな専門分野の方が参加していて、いろんな接点があったのは良い刺激を受けました。
・ピッチ登壇者
ワンオペだったので、ブース出店と登壇で忙しかったです(笑)。来場者の方とブースや登壇後に直接対話できたので、意見を聞くことができ勉強になったし良い出会いがありました。ジャンル、国籍問わず様々な方がいるのはよかったです。英語を久しぶりに使いました。Future Food Connectでは、スタートアップに対する次のステップとして、海外での展開を準備されているというのは貴重なことだと思います。
・参加者(食品関連)
友人に「面白いイベントがあるよ」と教えてもらい参加しました。垣根を超えた共創を創出するきっかけをつくるというコンセプトはとても素晴らしいので、どんどんこのようなイベントを定期的に実施して頂きたいと思いました。
今後はプレゼンテーション後に発表された方との交流する場などもあると嬉しいです。
・参加者(一般)
フードテックに興味があり参加しましたが、食の未来を作ろうとスタートアップの方々がピッチで想いを真剣に話していたことがとても印象的でした。ピッチを聞いた後に展示ブースで話をすることができたり、商品を体験できたのはよかったです。
トークセッションも大学教授から食品企業の方などいろんな方が食というテーマで語っていることが興味深かったです。
<文 / 林田順子>