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東大・宮城大の先生方3人が考える食の未来と課題 Food
Innovation

東大・宮城大の先生方3人が考える食の未来と課題

『Beeat!!八重洲』では東京大学と宮城大学の学生たちが考えた食の未来を提案し、アーティストがその学生たちの想いをふまえ、アートで表現した展示が行われている。この企画に携わり、学生たちが食の未来をディスカッションするワークショップに参加された東京大学農学部の三坂巧准教授と中西もも准教授、宮城大学食産業学群の石川伸一教授の3人は、今回の企画を通して食の未来や課題をどのように捉えたのだろうか。

 

食×科学は人を幸せにする?

 

中西もも(以下 中西):今回の『Beeat!!八重洲』のワークショップでは食の未来を伝えることの難しさも痛感しました。普段研究をしている我々は、新しい技術をどちらかといえばポジティブに捉えていて、科学は人を幸せにするものと信じているところがあります。ところが今回、学生がアーティストの方に未来の食のイメージを伝えた時に、「なんとなく気持ち悪い」と思われてしまうシーンがありました。

 

石川伸一(以下 石川):昆虫食や培養肉が話題に挙がったときですね。

 

中西:昆虫を食べるのが気持ち悪いという話と、実験施設のような場所で食べ物が細胞培養で作られることへの気持ち悪さは質が違うように思うのです。同じ前提条件で話せない理由が、受け止め方や気持ちの問題なのであれば、何について、どう気持ち悪いと感じるのかを学生とアーティストが双方向で深堀りできる対話の時間がもう少し取れたらよかったと思っています

 

石川:私個人としてはその受け取り方のギャップが面白かった。そう受け取るんだ!と学生たちも勉強になった気がします。

 

食の未来はポジティブか、ネガティブか

 

中西:我々のように農学部で食の課題に接していると、食糧難や人口問題、生産のための土地利用問題などへの危機感から、先行きが暗い印象になりがちですが、今回のワークショップでは、3Dフードプリンタや廃棄食品を活用する手段など、こうすれば明るい未来があるんだという提案を若い学生たちがしてくれて、明るい気持ちになれました。

 

石川:食に関心のある学生とない学生とはっきり分かれる印象があります。興味を持ちそうな話題を振ってもあまりピンときていない学生が一定数いて。なぜだろうと考えるとそういう学生は、未来に対してネガティブに考えている子が多いんですね。一度授業で未来をポジティブに思うか、ネガティブに思うか聞いたのですが、1/3がポジティブ、1/3がネガティブ、1/3がどちらでもないという結果でした。ネガティブに考える学生に食の未来を考えようといくら言っても、その意味を正しく伝えるのは難しいと今も悩んでいます。

 

三坂巧(以下 三坂):家庭にまな板のない世帯がどんどん増えていると言われています。食べることに全く興味がない、作るのが面倒くさい、簡便食で良い、という人が増えている。学生の中にも、複数人で集まっているのにみんなスマホを見ながら食事をしているシーンを見かけます。自分が何を食べているかよりもスマホの方が大事なのか、じゃあなぜ集まってご飯を食べているのか。無関心層の大きさは、今回の『Beeat!!八重洲』のような食のイベントに参加している人たちから考えると信じられないぐらい多いと思います。

 

若い世代に伝えたい食の楽しさや喜び

 

中西:私も無関心層の人について見聞きすることがあります。貧困による場合もあるのだと思いますが、ベビーシッターとして様々な家庭を訪問している知人が言うには、ある程度経済的余裕のある家庭であっても、親が食への関心を持っていないと、子供たちの食事も「何か食べさせておけば良いでしょ」とおざなりになっていることもあるそうです。食に無関心な家庭で育った子供たちが、これからどうなっていくのか不安に思います。子供や若い世代に食事は面倒なだけのものではなくて、喜びや楽しさがあって、それを通して栄養を摂ることができるなど、いわゆる食育ですが、本当にきちんと伝えないといけないと感じています。

 

三坂:食べ物に関しては家庭のしつけがやはり大切です。好き嫌いがないこと、食べ物を残さないこと、箸をきちんと持てることができている人は、親が食事に興味があって、子供への教育が成り立っていることの端的な一点を示していると思います。ただ10年以上学生を見ている立場としては、そういう人がすごく少なくなっている実感があり、日本は大丈夫なのかと憂うことがあります。

 

コミュニケーションツールとしての食の重要性

 

石川:私はコロナの影響で学生たちと食事に行けなくなって、相手の気持ちをわかりづらくなったと感じています。一緒に食事をすることは学生のパーソナリティの理解に役立っていたので、指導をする時もチグハグ感があって。一緒に飯を食べること、共食って大事だなと身を持って知っている段階です。

 

三坂:食がコミュニケーションツールになるというのは、人が人たる由縁だと思うんです。生物にとって食べ物というのは奪い合うもので、食を分け合い、コミュニケーションツールとして使っているのは人類ぐらいです。色々な人間が絡み合う社会の中で、分かち合う能力が失われている人は、ドロップアウトする可能性が高くなるのではないでしょうか。オンラインで事足りることも増えましたが、僕の持論は本当の人間性は会ってみないとわからないということ。今日もオンラインじゃなく、居酒屋で話をしていたら、また全然違う盛り上がりになったと思います。

 

中西:そうですね。その機会のひとつとなるのが『Beeat!!八重洲』のようなイベントなのかもしれないですね。「自分1人だったら行かなかった。けれど誘われたから行ってみたら新しい出会いがあった」みたいな場があるといいだろうなと思っています。

 

Beeat!!八重洲(ビートヤエス)
https://beeatyaesu.com/

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部「One Earth Guardians育成プログラム」
https://www.one-earth-g.a.u-tokyo.ac.jp/

宮城大学 石川伸一研究室
https://www.ishikawalab.com/

 

<文 / 林田順子>