MENU
【東京建物】欧州に見るリジェネラティブの現在地。イタリア視察レポート Food
Innovation

【東京建物】欧州に見るリジェネラティブの現在地。イタリア視察レポート

Tokyo Food Institute(TFI) と東京建物は、食を起点とした社会課題の解決とリジェネラティブな社会の実現に向けて、共創の枠を超えた取り組みを続けている。2025年6月に、TFIは、欧州における食のエコシステムの実態を探る東京建物のイタリア・ポリカ視察に参加した。リジェネラティブな取り組みの最前線で何が起こっているのか、TFI代表理事の沢俊和と東京建物から参加した谷口元祐、建道佳一郎の3人が現地の実態をレポートする。

東京建物では毎年、イタリア・ボローニャやフィレンツェに拠点を置くFuture Food Institute(FFI)の活動を現地視察している。

「私は今回で3回目の参加となりました。これまでの2回は、日本では浸透していなかったリジェネレーションの概念を学ぶことが主な目的でした。一方で、今回は欧州でリジェネラティブがどの程度まで浸透し、ビジネスの中でどのように活用されているのかを深く理解することが目的でした」と沢は語る。
 


言葉ではなく、生活に根づくリジェネラティブ思考

 

TFIでは新しい食のエコシステムを創出することを理念に掲げ、さまざまな企業との共創を進めている。そのため「グローバルの実態を学び、社団法人の活動へ還元をしていくことが重要である」と沢は強調する。

実際に現地で視察をした彼らが感じたのが「リジェネレーションという言葉自体は想像以上に使われていない」という事実だった。しかし言葉はなくとも、その思想は実生活に息づいていた。経済成長と環境保全の両立、そして文化やデザイン、地域社会への眼差し。そうした「リジェネラティブな思考」が、暮らしや政策、ビジネスに自然と組み込まれていたのである。

EUが推進するSDGsや脱炭素の取り組みは、まもなく2030年の目標年を迎える。しかし気候変動はむしろ加速し、多くの有識者が危機感を募らせている。
そうしたなか、2020年のコロナ禍にEUが発表したのが「New European Bauhaus(ニュー・ヨーロピアン・バウハウス)」である。脱炭素と経済成長の両立を目指す「欧州グリーンディール」に、芸術や文化、科学技術を融合させ、新たな生活様式や空間を構築することを目的としたプロジェクトだ。

「このプロジェクトは経済も回しながら、地球環境を守るという二軸だけでなく、文化やデザインなどの価値も尊重する考え方がベースとなっています。欧州ではSDGsやサステナブルはもはや当たり前のことで、ことさら強調することではありません。そのうえでさらに何をするのかが問われているのです。EUでは、その活動を推進するために、個人から都市レベルまで、大小さまざまなプロジェクトに補助金を投じています。」(建道)

谷口も「環境や自然保護という言葉が表に出ることはほとんどありませんが、配慮していないわけでなく、当たり前のことだから話すことはないというスタンスなんです。そのため直接環境にアプローチするのではなく、人口減少や文化保護などの課題解決を通じて、結果的に環境が守られているという取り組みが多いことも新鮮でした」と語る。

 

欧州のリジェネラティブビジネスの現状とは

 

今回のツアーでは、リジェネラティブはビジネスとしてどう成立しているのかという視点が重視された。

「ビジネスという言葉は広義です。そのなかで、リジェネラティブをどう定量的に評価して、利益に結びつけているのかが、今回我々が知りたかったところです。」と沢は語る。
なかでも3人が印象深かったと話すのが、イタリアのリジェネラティブ・コンサルティング会社「NATIVA(ナティバ)社」だ。

「同社はリジェネラティブな企業においてなりたい未来と現在地のギャップを可視化し、伴走しながら改善を支援しています。どのように定量化しているかというと、B Corp指標が評価のベースになっています。ただB Corpはリジェネラティブの評価ではありませんから、そこに生物多様性や地域社会との関係など、独自の要素を加えていました。30人以上の専門家が在籍し、分野横断的に関与しており、文化・経済・人とのつながりといった多様な課題を総合的にアドバイスできる体制を整えていました。」(沢)

顧客にはパタゴニアなど、環境意識の高いグローバル企業も名を連ねているという。

「このような大企業が定期的にコンサルティングを受けている事実を知り、欧州では、リジェネラティブ・コンサルティングがすでに信頼されるビジネスモデルとして確立されていることを感じました」(沢)

建道が挙げたもう1つの事例が、Bologna Business School(ボローニャ・ビジネススクール)で新設された「Executive Master in Food Innovation and Regeneration」コースだ。

Img 7174
Bologna Business School(ボローニャ・ビジネススクール)視察の様子

「まだ1年目ということもあり、未知数な部分は多いですが、参加者約20人のうち半数はアジアからの参加者ということでした。アフリカからの参加者もいる一方、EUの参加者は少なく、アジア圏での注目度の高さを感じました。また、参加者はフェラーリ社などのグローバル企業の幹部候補生が中心となっているそうで、世界の企業がいかにリジェネラティブをビジネスにいかに組み込むか、真剣に視野に入れていることも実感しました。」(谷口)

企業が自社の課題を学校側に投げかけ、学生とともに解決を図るワークショップ形式も導入されていたという。

「アカデミアと企業が密接に連携し、教育が社会実装の一部になっている。そうした欧州のスピード感と意識の高さには驚かされました。」と谷口は語る。

一行はポリカ地方で、地域農業モデルを実践しているLA PETROSA(ペトローザ農園)も訪問した。

「数年前に訪れたときは、伝統農法へのこだわりを強く語っていた農場主でしたが、今回はつながりの拡張を強く語り、意識の進化を感じました。農場にレストランやショップを併設し、農場や周辺地域で使われた麻袋や瓶をアップサイクルして新しい商品に生まれ変わらせるなど、着実な広がりを見せていました」(沢)

Img 7429
LA PETROSA(ペトローザ農園)併設のレストランにて農場主による説明を聞く参加者

 

トップダウンとボトムアップの両輪がリジェネラティブを浸透させる

 

建道は、多くの取り組みを視察したことで「EUのニュー・ヨーロピアン・バウハウスやナティバのようなリジェネラティブ・コンサルティングは、ルールメイカー寄りの取り組みです。一方でポリカの街や農園では、急激な拡大ではなくとも、地元の人々が少しずつ輪を広げている。ルールメイカーが制度や支援の枠組みを少し組み替えることで、地元の人たちは今ある営みを無理なく続けられる。トップダウンとボトムアップの両方が重なり合うことで、持続的な変化が生まれているのだと感じました」と語る。

現地ではイタリアのみならず、近隣諸国の事例も紹介された。スペイン バルセロナでは、都市住民に近郊の休耕地や未利用地を畑として開放するプロジェクトが進められている。また、都市部のフードテック企業が周辺農地を実験場として活用し、都市と農村を往来する人・技術・知の循環を生み出している。

「文化も制度も異なる日本に、EUの事例をそのまま持ち込むのは難しいですが、地方と都市の関係性を再構築するヒントが数多くありました。」と谷口は語る。「日本は自然資源が豊富で、交通インフラも発達している。距離や地域を超えて、人と知が行き交う仕組みを作ることで、新しいエコシステムを形成できるのではないかと感じました」(谷口)

またFFIが運営する各地のリビングラボにもヒントがあったという。

「ボローニャではボローニャ大学キャンパス内の学食に拠点があり、学生たちと距離が近いカジュアルな空間。一方、ポリカでは旧市庁舎である城が拠点となり、中庭で食事を囲みながら議論できるサロンのような場になっていました。地域によって雰囲気が異なり、それぞれが対話を促す空間として機能していた。日本でも、地域ごとの特色を生かしたリビングラボ的な対話の場を生み出すことは有効ではないかと感じています」(谷口)

Img 7081
ボローニャ大学キャンパス内学食の様子

Img 7340
ポリカにあるカパーノ城の中庭での様子

今回のツアーを通じ、建道は「FFIもそうですが、大きなビジョンを描く人がいて、その実現のために必要な人や企業を、適切な場所に巻き込むことが大切だと今回の視察を通じて学びました。それが欧州では自然に行われているのです。日本から新しい食のエコシステムを構築するときにも、多様なステークホルダーをどう巻き込み、共創の輪を広げるかが鍵になると思いました。また、教育的観点から次世代を担う若者を巻き込んだ教育の必要性も感じました」と語る。

3度目の参加となった沢は、継続的な観察の意義をこう語る。
「1年で世界は大きく変化します。やめたこともあれば、深化したこともある。2030年に向けての動きが加速する一方で、気候変動の影響もより深刻になるでしょう。だからこそ、TFIは今後も継続的に世界の潮流を見つめ、学び続けていきたいと考えています」

TFIは今後も東京建物やFFIと連携をし、海外で培われたリジェネラティブの知見を日本社会へと還元していく。その歩みは食を通じた再生の思想を広げる挑戦となるだろう。
 
 

沢 俊和
Toshikazu SAWA
Sawa2 (2)
TOKYO FOOD INSTITUTE 代表理事
東京建物株式会社にて、2010年からまちづくりに従事。2019年に社会課題の解決を目指す実証実験・社会実装の場としてTOKYO FOOD LABを開設。同年、イノベーションにより社会課題解決等を目指しているFuture Foodと一緒にFuture Food Japanをスタート。2021年に一般社団法人 TOKYO FOOD INSTITUTEを設立し、食に関する人材育成・R&D・社会実装の推進の支援に取り組む。「経済成長」「持続可能な地球環境」「人々の暮らしの豊かさ」がバランスした持続可能な社会を実現するための新たな食のエコシステム構築を目指している。

 

谷口 元祐
Motohiro TANIGUCHI

谷口さん
東京建物株式会社 まちづくり推進部 課長代理
大学・大学院時代は建築学(意匠設計)を専攻し、入社当初はマンション開発に携わり、東京建物のマンションブランド「Brillia」の商品企画を担当し、住まいの在り方を追求。その後、複合再開発事業に携わった。同時期にコロナが流行し、これからのオフィスの在り方などを検討する中で、実証実験プロジェクトを複数推進。本年当部に異動し、リジェネラティブなまちづくりを目指すべく、様々なプロジェクトを立ち上げ推進。最近の興味領域は「地域と都市の循環関係の構築」。

 

建道 佳一郎
Keiichiro KONDO
自己紹介写真 (1)
東京建物株式会社 まちづくり推進部 主任
東京大学大学院工学系研究科にて建築計画学を専攻。2024年、東京建物へ入社。八重洲・日本橋・京橋エリアのオフィスビル管理運営を担当。テクノロジー実装による付加価値向上・管理効率化の可能性も探った。
2025年よりまちづくり推進部に異動。リジェネラティブな価値の社会実装に向けたアクションの企画・運営、および食の拠点計画に携わっている。

 

<文 / 林田順子>