【TFI】Future Food Instituteの本拠地イタリア視察レポート(前編)
イタリア・ボローニャに本拠地を置くFuture Food Institute(FFI)は、世界各地にオフィス、リビングラボ、イノベーションハブなどを持ち、食を中心とした社会課題解決に繋がるエコシステムの構築を行う世界最大規模のグローバルネットワークとして、世界中から注目を集めている。
我々、Tokyo Food Institute(TFI)は設立当初から、「新たな食の価値の創出」を目指し、日本国内におけるイベント・セミナーの開催についてFFIと連携を進めてきた。
今回TFIは、FFIのイタリアでの活動を視察するため、初めて現地イタリアを訪問。現地で見たFFIの独自の取り組みをTFI事務局の富田龍彦がレポートする。
目次
ボローニャ大学の学食が社会実装の場に
FFIの特徴のひとつが、指定管理者としてボローニャ大学の学食を運営しながら、そこのバックスペースをオフィスとして活用をしているところにある。学食は当然、学生が集う場所であるが、同時にFFIは、食・コミュニティ・イノベーションの3つの機能を持つ場所として「スクデリアリビングラボ(SLL)」を施設内に開設。SLLは常設の社会実験かつ学ぶ機会を提供する場と位置付けられ、食関連のスタートアップとコラボして商品のプロトタイプを提供したり、食のイノベーションの展示などを行ったりすることで、日常生活の延長線上での知識の交換や食育の場として活用されている。
ボローニャ大学の学食(写真左)、学食のバックスペースにあるFFIのオフィス(写真右)
「例えば『URBAN FARMER』と書かれたブースには、水槽の上で植物を育てることで都市型農業の仕組みを解説していました。またFFIと企業の協働による食品がディスプレイされているだけでなく、ビールの搾りカスから作られたパスタを提供するポップアップストアが学食内に出店するなど、様々な形での社会実装が行われていました」
新しい食材を使ったメニューを試すことができる(写真左)、FFIと企業の協働で生まれた食品のディスプレイ(写真右)
またFFIには最新の調理技術や化学変化を活用し、よりイノベーティブな食を創出するフードアルケミストというプロジェクトチームが結成されている。今回の視察では彼らによるディナーワークも開催された。
「学食の地下にキッチンスペースがあり、スペイン人のシェフが調理を担当しました。メニューはビーガンでも食べられる肉や、米の代わりにクスクスを利用した寿司、食品の端材や不可食部を発酵の技術で活用した料理など、説明をされないと、一見しただけでは何が使われているのかわからないメニューでしたが、このように最新の研究や技術とシェフをつなぐ活動もFFIでは広く行われているのが特徴だと感じました」
ディナーワークの様子
FFIがボローニャ大学に本拠地を置く意義
食のエコシステムを考えるとき、どのように社会実装やアクションを起こしていくかが課題となる。ボローニャ大学の学食は、ボローニャ市中心部の歴史的な建物の中にあり、学生だけでなく、様々な人が訪れるオープンスペースになっており、そのなかで食べ方の提案や新しい技術を紹介することは、多くの人に食について考えるきっかけを与えることができる。
「もしこれがただのオフィスであれば、不特定多数の人々とコミュニケーションを取ることは難しいでしょう。大学の学食の一部をオフィスにすることの利点を感じましたし、社会に実装するためにこのようなオープンなスペースを活用する取り組みは非常に重要になってくるでしょう」
後編では、イタリア南部の都市ポリカのリビングラボをレポートする。
富田 龍彦
Tatsuhiko TOMITA
福岡県福岡市出身。日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て、九州大学大学院理学府物理学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。2018年より東京建物株式会社へ入社し、事業計画・オフィスビル運営管理・テクノロジー実装推進に従事。2021年より一般社団法人TOKYO FOOD INSTITUTEに事務局として参画し、学生達と社会課題を解決するアイディアを考え、社会実装する「Future Food Innovation Workshop」の企画・運営、若手料理人のコンテストを実施し、独立開業を支援する「チャレンジキッチン」の運営業務に従事している。
<文 / 林田順子>