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【中東俊文氏3/3】これからの若き料理人に期待すること Food
Innovation

【中東俊文氏3/3】これからの若き料理人に期待すること

京都を代表する料理店を営む家に生まれ、イタリア、フランスの星付きレストランで経験を積み重ねてきた東京・西麻布の「草片cusavilla」の中東俊文シェフ。Tokyo Food Institute が主催し、若き料理人の独立開業をサポートする「チャレンジキッチン」プロジェクトでは審査員も務める中東氏が、自ら学んできたこと、そして若い料理人に期待することとは何か。

 

目次

  1. 辛い時期をいかに楽しめるかが重要
  2. 若き料理人に求めるものとは

 

辛い時期をいかに楽しめるかが重要

 

京都の名店「草喰なかひがし」の店主を父にもつ中東氏。中学時代は皿洗いなどを手伝っていたこともあり、料理界の厳しさは幼い頃から知っていた。

「父は昭和世代ですから、理不尽なことも言われるし、厳しいのは当たり前の時代でした。ただ、それは海外でも同じです。イタリアに渡ったときも僕は18歳ですから、包丁が少し使えるぐらいで、何もできない。それなのに人手が足りないから肉を焼けと言われて、焼いてみたら『違う』と怒られる。パリのレストランでは、調理場のスタッフ30人のうち1ヶ月続いているのが20人、さらに1年以上続いているのは1人か2人。みんな成り上がろうと必死で、お互いがライバルだから助け合うという考えは基本的にはない。睡眠時間は3時間もあればいい方でしたが、自分がいかに多くの仕事を覚えてこなすかというマインドでした。だからどこでも最初は辛いんですよ。ただ、やっているうちにトランス状態になってくるし、厳しい環境に自分を置けているこの時間を楽しんで、頑張ろうと思っていました」

辛いこともあるけれど、基本は楽しむ。これは中東氏が若いスタッフたちにも常日頃言っているアドバイスだ。

「レストランの業務のなかで自分が本当に楽しいと思っていることは何かを明確化して、まずは自分がそれを楽しんで、お客様に喜んでもらえるようにインフラを整備することが必要かと思います。よくうちの店でも、楽しくないなら継続性は無いし、どんなに小さいことでも、自分が楽しくてお客様が喜んでくれることは進んで行うように常にスタッフに言っています」

楽しむためには、仕事だけでなく、プライベートの時間をどう使うのかも重要になってくると中東氏は語る。

「最近は少しずつ変わってきていますが、それでも料理人は拘束時間が長いですよね。僕は正直、レストランでお給料をもらって学べることって、世界中どこにいても一緒だと思うんです。だけど休日にイタリアの同僚の家で、おばあちゃんが作ってくれたラビオリを食べさせてもらったり、レストランでは学べない地に足のついた味を勉強できるのは、日本では絶対に経験できないことです。忙しいなかでもプライベートな時間をどう使うかというのがすごく大事だし、そういう時間を持てたことは一生の宝になる。自分に与えられた少ない時間の中でいかに楽しめるかが、将来的に自分の身になっていくものです」

 

若き料理人に求めるものとは

 

現在、調理師専門学校で講師をすることもあるという中東氏は、教育現場で感じていることがあるという。
「とりあえず調理師専門学校に行っておけばいいというマインドの子が多い印象です。『調理師専門学校』って言い得て妙だと思うのですが、料理人ではなくて調理人を育てる場所なんです。テクニックは学ぶことができるけれど、料理を創り出すことは学べない。今、アルバイトに来ている子は、調理師専門学校の生徒なのですが、先日の勤務中『そうか、レシピを覚えたから料理ができるってことじゃないんだ』とボソッと言ったんです。これはこちらが言葉で伝えたり、本で読んで、情報をインプットしたとしても、自分で気づかない限り身になることはないんです。そういう気づきを多く与えられる教育をしないといけないとは思っています」

オンラインの発達により、多くの情報が手に入るようになった現代社会。便利になる一方で、玉石混淆の情報が溢れるがゆえに迷う若者も多いと中東氏は語る。

「情報過多で考え過ぎてしまって、失敗を怖がって動けなくなっている子が多い印象です。さらに日本は失敗が許されない雰囲気ですから、ますます一歩が踏み出せない。だけどイタリアでは失敗しても、ミスした本人が『そういうこともあるよね』という空気なんですね。だから3割行けると思ったら、動いていいんじゃないかと僕は思っている。だって野球だったら打率3割ってすごいことですよ。それよりも、失敗したら『ごめんなさい』と謝って、許してもらえる関係性を築くことが大事だし、失敗を失敗と捉えないメンタルの方が大切かなと思います。だって農業をやっていたら失敗の連続ですよ。スーパーで売っているような、きれいなきゅうりなんてまずできません。だけど、それでもお客さんはおいしいと言ってくれますから」

情報に踊らされるのではなく、うまく活用する道を見つけて、失敗を恐れない。それこそが中東氏が若き料理人たちに期待していることだ。

「デジタルネイティブの今の子たちは、いろいろなツールを駆使して、多くの情報にアクセスできる。僕らよりも得られる情報は圧倒的に多いのだから、ちゃんと使いこなすことができれば、すごい料理人が生まれてくる世代だと思っています。『チャレンジキッチン』でも、キッチンカーという形態で、どこまでのことをやってくれるのか。すごく楽しみにしています」

 

中東 俊文
Toshifumi NAKAHIGASHI
L1080227 1

1982年、京都府生まれ。京都の名店・ミシュランニツ星店「草喰なかひがし」の店主を父に持ち、幼少の頃より料理に慣れ親しんできた。18歳で単身渡伊し、トスカーナの「Ristorante Arnolfo」をはじめとするミシュラン星付き店で経験を積み帰国。帰国後も数々の名店で腕を振るい、「erba da nakahigashi」を開業。2020年、「草片cusavilla」にリニューアルした。
独創的かつ色彩豊かな料理を提供し続けている。

草片cusavilla
https://cusavilla.com/

チャレンジキッチン
https://challengekitchen-kitchencar.jp/

 

<文 / 林田順子>