【東京建物2/2】FFIによるリジェナラティブを体感するプログラム「RegeneAction スタディツアー2024」レポート
Basque Culinary Center(BCC)でのワークショップに続いて、イタリアで開催されたのが、Future Food Institute(FFI)による、日本向けの体験型プログラム『RegenerAction スタディツアー』だ。
イタリア・ボローニャに本拠地を置くFFIは、食を中心とした社会課題解決につながるエコシステムの構築を行う世界最大規模のグローバルネットワークとして知られている。
すでにイタリアのポリカ市ではリビングラボを実装し、新たにフィレンツェでのリビングラボも予定されている。スタディツアーは、この2都市でリビングラボに参画するステークホルダーとの交流や実体験を通じ、FFIが提唱する総合的エコロジーおよびリジェネラティブな活動について理解を深めることを目的に行われた。
実際にFFIはどのようなリジェネラティブなアクションを起こしているのか。ツアーに参加した東京建物の沢田明大と吉田有希がリポートする。
目次
FFIのリジェネラティブへのアプローチ手法
FFIは2021年からポリカで、リジェネラティブな活動を知り、学び、伝え合って発信していく国際的カンファレンス『RegenerAction』を実施している。
「それに呼応して、2023年から始まったのが『RegenerAction Japan』です。我々はこれから日本でリジェネラティブな動きを加速させていくためには、わかりやすい事例を体感してもらうことが大切だと思い、FFIと今回のツアーを企画しました。昨年に続き今回は、よりリジェネラティブを感じられるプレイヤーへの訪問を積極的に組み込みました」(沢田)
初日は今後フィレンツェのリビングラボの拠点となる、モンテパルディ・ファームを訪問。
「元メディチ家の領土であるモンテパルディは、大都市であるフィレンツェから車で30分ほどの郊外にありながら、ワイン造りなども行われるなど、農のイノベーション・ハブになっています。今回は施設の見学なども行いながら、今後、どのようにリジェネラティブな方法で生産や商品開発を行うかなどを学びました」
2日目からはリジェネラティブな「地中海式の食生活」を通じて、地域の経済競争力を高めているポリカ市に移動。水牛の飼育からモッツァレラチーズの製造までを行う酪農家や、白いちじくの生産現場などを訪れた。
白いちじく生産の様子
「各プレイヤーがなぜリジェネラティブかというと、そのひとつに伝統的な方法を守り続けていることが挙げられます。伝統的な方法を守ることについては、イタリアに限らず日本も実施していますが、それだけのアプローチでは収益面では満たされず、下手をすると事業が継続できなくなってしまうこともある。そこでFFIは、生産者の点と点を線に繋げ、さらにエリア全体を『グレーターポリカ』という面というかたちでプロモートすることで、地域経済の活性を行なっています。例えば、いちじくは農産物としてはありふれていますが、これまで感覚でやってきた伝統的製法を、何℃で乾燥させるとより良い味わいになるのかなど、テックを組み込んだり、大学と研究をしたりしています。また、いちじくをチョコレートでコーティングするなどで商品のクオリティを上げたりと、商品価値を高めることで国際競争力をつけているのです」(沢田)
現地で味わうことで深まる理解
またスタディ・ツアーでは、食事の際に、視察したポリカのプレーヤーたちが自分たちの商品を持ってレストランを訪れ、共に食卓を囲んで、製品を試食しながら、改めて生産方法や思いを共有した。
生産者との食事の場でのコミュニケーションの機会も創出
「例えば、今回オイルサーディンの生産者に会うため、漁港を訪れる予定でしたが、荒天のために中止になりました。すると漁師の方が我々のディナーに来て、自分たちの活動について説明をしてくれたのです。彼らが使う魚網は、網目が大きくなっていて、小さなイワシは捕獲できないようになっている。これは乱獲を防ぎ、資源保護につながる漁法で、彼らはパタゴニアの認証も受けているということでした。そして説明が終わったところで『それで、これがそのサーディーンを使った料理です。召し上がってください』と言うんですね。ストーリーも含めて、価値を知ってもらう説明方法はとても参考になりました」(吉田)
「私はリジェネラティブという方向を向いたプレーヤー同士だからというだけでなく、食は誰にとっても身近であるがゆえに、話がとても盛り上がるのだと感じました。マルチプレイで繋がってエコシステムを実践していくことで、スタートアップやアカデミア、行政など、新しいプレーヤーがさらに集まってくる。FFIはそういう巻き込んでいく力がすごいですし、そういうことができるエコシステムが存在するということは、参加者にとって大きな気づきとなりました」(沢田)
リジェネラティブはサステナブルの次のフェーズとして世界的に注目をされているが、言葉が一人歩きをして、実地に落とし込めていない場合が多いことが課題となっている。
「ミシュラングリーンスターを獲得したシェフや、海藻による環境保全をおこなっているスタートアップがまさにそうでした。彼らは一つひとつのサステナブルなアクションは理解していましたが、今回のツアーで有機的なリジェネラティブのネットワークのあり方を認識したと語っていました。また、リジェネラティブは環境数値だけを見るわけではなく、もっと緩くて、広義で良いというのいうのも知り、今後の自分たちの活動の広がりへの可能性も感じたようです」(沢田)
「私は今年が初参加だったのですが、昨年参加した方が『前回よりもリジェネラティブという単語が出てくる機会がすごく増えている』とおっしゃっていました。確かに生産者の方々も『実はここがリジェネラティブなんだ』と、自分たちの言葉で語られている印象がありました。FFIの地道な活動を通じて、この1年でリジェネラティブという概念が中身のあるものとしてポリカに広まっていると感じました」(吉田)
ポリカでのワークショップを開催
3泊4日という短期間ではあったが、現地を直接訪れ、プレーヤーとの親睦を深めることは、大きな収穫につながったと語る2人。
「今回のツアーで新鮮だったのは、古代ギリシャ神殿の遺跡が建つパエストゥム考古学公園が含まれていたことです。リジェネラティブという概念は最近できたものですが、古代からの農法や漁を知ったうえで、遺跡に触れると、歴史的な系譜を感じることができ、人とのつながりだけでなく、時間的なつながりも大事だということを実感しました」(吉田)
「リジェネラティブは日本人が元々持っている自然との共生という概念に近いと思っています。だからこそ今後は、日本人ならではの解釈で、自分たちのアクションとして進めていくことが大切になってくると感じています。その中で『RegenerAction Japan』は、同じような考えを持つ人たちが集い、日本の活動を世界に伝えることで国際連携ができる場であると思っています」(沢田)
2024年11月25日には3回目となる「RegenerAction Japan」が開催される。日本から世界へどんなアクションを発信できるのか、会場に足を運んで、考えるきっかけにしてほしい。
沢田 明大
Rocky SAWADA
北海道帯広市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、東京建物株式会社にて、住宅事業を担当し、米国東京建物駐在を経て、国内外不動産のクロスボーダー取引を担当。2021年より、サステナブルのその先“リジェネラティブ”な社会を東京から実現するため、様々なみなさんとFOOD食を軸とした共創とイノベーション創出をサポートしている。
吉田 有希
Yuki YOSHIDA
早稲田大学基幹理工学部にて電子物理学(高周波回路論)を専攻。2020年東京建物に入社。緊急事態宣言が何度も発令される中渋谷・六本木エリアのオフィスビル管理を担当し、プロパティマネジメント業務の傍ら新しいオフィスビルの在り方や事務所がもつ可能性を探る実証実験などを行う。2023年より一般社団法人TOKYO FOOD INSTITUTEへ事務局として参画。Future Food Innovation Workshopやチャレンジキッチンの運営業務、RegenerAction Japanの企画運営業務などに携わっている。
<文 / 林田順子>