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【鈴木隆一氏1/2】食のアカデミアBasque Culinary Centerも認めたOISSYの味覚センサー「レオ」とは Food
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【鈴木隆一氏1/2】食のアカデミアBasque Culinary Centerも認めたOISSYの味覚センサー「レオ」とは

美食の街、スペイン・サンセバスチャンにある、先鋭的な食のアカデミア「Basque Culinary Center(BCC)」では、新たな食の価値の創出を行う起業家支援を目的としたFoodtech Startupピッチコンテスト「Culinary Action On the road by BCC」を毎年、世界5か国で開催している。

昨年に引き続き、Tokyo Food Institute(TFI)とイタリアのFuture Food Institute(FFI)との協働により行われた日本大会では、株式会社OISSYがBCC賞に選出。
2024年4月に行われた、世界5カ国から選ばれた5つのスタートアップによるグローバルピッチコンテストに出場した。

苦味、塩味、旨味、甘味、酸味を5つのセンサーで検知し、ニューロンネットワーク分析で味覚を数値価するOISSYは「世界的にガストロノミーにおけるペアリングの価値が高まっているなか、数値化できる機能は、食メーカーならびにシェフなど幅広い食の世界に可能性を感じる」と評価され、グローバルピッチコンテストで優勝。BCCも認めたOISSYの技術とは如何なるものなのか。代表取締役を務める鈴木隆一氏に、その同社の取り組みや、今後の事業展開について話を聞いた。

 

目次

    1. 味を数値化することの意義
    2. 「香り」と「健康」へのアプローチが今後の課題

 

味を数値化することの意義

 

鈴木氏が現在の事業の根幹となる、味の数値化という着想を得たのは、大学時代に友人たちとラーメン店の経営を始めたことがきっかけだった。

「私が通っていた大学の近所にラーメン店がいくつかあったのですが、どこも連日大行列になるほど繁盛していました。それで『これは自分たちにもできるんじゃないか』と仲間4人でラーメン店をオープンすることにしました。ところが、いざメニューを決めようとなったときに、どんな味にするかという議論が全く進まないわけです。例えばこれが建築であれば、何階建てにしようとか、どのぐらいの大きさにしようとか、指標があります。ところが、味の場合は主観によるところが大きく、数値化されていないため、非常にファジーな議論になりやすい。私自身は理系の人間でしたので、数字で議論をできないことに、すごく課題を感じていました」

当時、味覚センサーと呼ばれる既存技術はあったものの、塩味など単一の味の数値化にとどまっていたため、数値とおいしさとの関連性が不明瞭であったり、センシング技術などの課題も多かったという。

「人間の味覚には、塩味、酸味、甘味、苦味、旨味という基本五味があります。この五味のうち塩味と酸味はイオン系のため比較的測定が容易です。一方で、甘味、苦味、旨味は分子のため、電気化学的に測定しづらいという課題がありました。それで新たな測定方法と、AI技術を用いて、数値化を可能にしたのが味覚センサー『レオ』です」

レオ(記事挿入用)味覚センサー「レオ」


味覚センサー「レオ」では、味の数値化だけでなく、コーヒーに砂糖を入れたときに、苦味が和らぐなどの「味の相互作用」、相性の良い食材の組み合わせ、味の経時変化、コクなども可視化が可能となっている。

現在はこの技術を大手食品メーカーや飲料メーカーなどが活用。
数値化したトレンドの味を参考に商品開発を行ったり、他社の商品と数値を比較することで、同様の商品の中での味の特徴を視覚化したり、料理と商品との味の相性の良さなどを可視化したりと、科学的かつ視覚的に味を分析し、開発やマーケティングプロモーションなどを行なっている。

 

味チャート1

味チャート2
味覚センサー「レオ」による味の数値化・可視化の事例(鈴木氏提供)


また、最近ではこの技術に海外も着目をし、問い合わせやオファーも届きはじめているという。

「台湾の大学と連携をしたり、中国の企業からサンプルを送ってもらって分析をしたりしています。ただ、味覚センサー「レオ」を海外に持ち出すというのは、現地に送る人材や輸送コストなどを考えるとあまり現実的ではないので、現状として海外への展開は、日本企業の海外進出のサポートをするというのが良い形だと考えています。また、日本は旨味への感受性が強かったり、ヨーロッパは酸味が強かったり、東南アジアでは塩味を感じやすかったりと、国によって味覚に違いがありますので、なかなか判断が難しいところでもあると思っています」

Vol.1 L1110008

 

「香り」と「健康」へのアプローチが今後の課題

 

味の数値化に高い評価を受ける一方、味覚の追求の余地はまだあると鈴木氏は語る。そのひとつが香りのセンシングだ。

「味覚には基本五味がありますが、香りには基本がありません。それでいて香りはおいしさを構成する一つの要素となっている。ところが気体中は香りの成分よりも水蒸気の分量が多いため、湿度などの影響が出やすい。そのノイズをいかに取り除くかが課題なのですが、これが非常に難しい。そこで我々は現在、液体に溶解している香りの揮発成分を、水中の味覚センサーで測定します。この香りの成分が溶解していると甘さを増して感じるとか、この香りがあると酸味を抑制して感じるとか、香りそのものではなく味をどのように感じるかという官能評価のアプローチをとっています。ただ、気体中の香りの解析は弊社としても興味を持っている分野なので、積極的に取り組んでいます」

アメリカからBCCのグローバルピッチコンテストに参加したAlchemBios社も香りへのアプローチを行っている企業だ。「弊社よりもはるかに難しい課題に取り組んでいる会社です」と言う鈴木氏は、香りの数値化実現のため、同社と積極的に意見交換やミーティングを行うなど交流を続けているという。

そしてもうひとつ研究を進めたいと考えているのがおいしさと健康の両立だ。

「各国で人々が一番快いと思うことを調べたデータがあるのですが、欧米人が性的行為や異性と過ごす時間を挙げたのに対し、日本人は『おいしいものを食べる』が1位となったのです。つまり日本人は食で幸福度を感じる人が多いということです。一方で、健康には良くても、おいしくないものを食べ続けることは、ストレスにつながり、実は不健康だという説もあります。つまり新しいおいしさを発見したり、おいしいと感じることは、脳へ新しい刺激をもたらし、メンタルヘルスや人間の健康に寄与するのではないかというのが私の仮説です。おいしくて健康的な食べ物には、ものすごい価値があると考えているので、この2つを結びつける活動に今後は力を入れていきたいと思っています」

 

鈴木 隆一
Ryuichi SUZUKI

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OISSY株式会社・代表取締役社長。慶應義塾大学院理工学研究科修士課程修了。在学中よりシステム開発の受託などを行いながら慶應義塾大学SFC研究所研究員も兼務。慶應義塾大学共同研究員・特任講師を歴任。AI搭載「味覚センサーレオ」を開発して、OISSY株式会社を設立。著書に「日本人の味覚は世界一」「味覚力を鍛えれば病気にならない」など。「世界一受けたい授業」「ガイアの夜明け」などにも出演。味覚の受託分析や食べ物の相性研究を実施している。

 

<文 / 林田順子>