【イベントレポート前編】日本のFOODエコシステムをリード!異分野融合で新たな食の製品・サービスを”社会実装する”「Future Food Connect 2024」9月12日実施
2024年9月12日、当社団法人TOKYO FOOD INSTITUTE(TFI)は、Venture Café Tokyo、Future Food Institute(FFI)と連携し、「異分野融合で新たな製品・サービスを〝社会実装する〟」をテーマにしたクロストークイベント「Future Food Connect2024」を開催。
2022年にスタートし、3回目の開催となった今年は昨年を上回る現地270名、オンライン含む400名以上が参加。食産業の発展や地球あるいは人々の未来に繋がる、新たな価値の創出を目指した本イベントには、大企業、行政、シェフ、アカデミア、スタートアップなど、さまざまな食のプレイヤーが集結した。業界を超えて、さまざまな交流が行われたイベントの模様を前編・後編にわたり、リポートする。
目次
新たな拠点を構えるTFIの理念
今回も、虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーCIC内のVenture Café Tokyoの2会場にて同時進行で行われ、メインステージではTFI代表理事の沢俊和が開会の挨拶と共に、社団の取り組みとプログラムの概要を説明した。
「TFIでは利益は追及せず、公益的な利益を目標に掲げており、最近ではフードだけではなく、Regenerationの考えで活動を広げています。経済活動か地球環境かの二軸ではなく、人々の豊かな暮らしや社会のつながり、文化などいろいろな価値を同時に考える、視点を切り替えることで豊かな未来が作れると考えています。日本においては古来より、そういう考え方が当たり前のように存在していました。だからこそ、改めて今その考えに焦点を当てることが大切じゃないかと考えています。そのため、机上の空論で終わらせるのではなく、フットワークを軽く、まずはやってみることを大切に、イタリアのFFIやスペインにある食の学術機関Basque Culinary Center(BCC)とも連携して、さまざまな活動を行なっています。また11月には日本橋に新たな拠点もオープンする予定です」
沢の言葉を引き継ぎ、東京建物の沢田明大が、この拠点について説明を行った。
「世界各国から注目をされているBCCの次世代教育プラットフォームGOeが、この度、初の共創場所として東京を選び、Gastronomy Innovation Campus Tokyo設立の運びとなりました。機能は3つ、カフェとキャンパスとリビングラボです。食にまつわるプレーヤーが集うカフェはnolの野田達也シェフにご担当いただき、併設するリビングラボでは、カンファレンスだけでなく、さまざまコンテンツを発信する予定です。そしてキャンパスでは、BCCのイノベーティブなカリキュラムを受けることができます。まずは企業、シェフ、科学者向けのコースをスタートし、2025年にトライアルコースを開始します。ここに行けば何かを感じることができる、そんな場を目指しています」
食の課題解決のための企業や団体の取り組み
続いて行われたのがインスピレーショントーク。前回を超える17社が参加し、日本の食の未来を作り出す各社のビジョンや取り組みを語った。
BCCのRaquel Martín氏はオンラインで登壇。BCCは2025年に新施設『ガストロノミー・オープン・エコシステム(GOe)』をオープンする。
GOeはシェフ、研究者、プロデューサー、スタートアップなどの食関連のプレーヤーが集う、食が直面する課題解決のためのエコシステムとなる施設となる。
「現在の課題は、科学者やシェフ、プロデューサー、建築家など、さまざまな分野のプレイヤーが、独自の方法論、考え方、目的を持って取り組んでいることです。それぞれが得意分野や専門知識を持っていても、すべてのアプローチを統合することは実現していません。彼らの情報を総合し、より大きな課題解決に繋げる。その役割を担うのがGOeです。また、このプロジェクトはGastronomy Innovation Campus Tokyoのチームとも連携しています。最高のイノベーションとソリューションは、分野間の壁を壊すことから生まれることを知っておいてください」
東京科学大学大学院で摂食嚥下リハビリテーション学分野に在籍する山口浩平氏のテーマは『超高齢社会における食』。歯科医師の視点から見た、食の課題には多くの聴衆が関心を寄せた。
「認知する、噛む、飲み込む。これらの食べる機能が、歯の欠損、加齢、疾患等の影響で一定の水準以下になると、人は食の楽しみを享受できなくなります。そして食の楽しみを失うと、人は外出をしなくなるなど、行動にも変化が現れます。高齢者の集団で見ると、食べる機能はモザイク状に多様ですが、その多様性に日本は対応できているでしょうか。介護施設では、食べる機能に応じて、食べ物の形を変えて提供します。つまり食材に水を入れてミキサーで撹拌するのです。当然元の素材はわかりません。味もぼやけます。これで食が本来持っている楽しみを享受できていると言えるでしょうか。一方で食べる機能が落ちても、食の楽しさを享受できるのであれば、高齢者は外出をする可能性があります。つまり食であれば、高齢者の行動を変えることができるのではないか。日本の研究や医療はこの分野ではトップレベルですが、社会実装がされていません。こういうギャップをこの機会に色々議論して欲しいと思っています」
ソフトバンクが現在進めているのが魚の品質規格標準化プロジェクトだ。登壇した須田和人氏は畜産や漁業を含めた一次産業のスマート化に向けた研究開発を行なっている。
「今、世界では、紛争、テロ、異常気象など、食糧の安全保障が脅かされています。食料自給率も年々低下し、輸入に依存する現状です。日本の漁業はといえば、漁獲量はピーク時から半減し、漁業就業者も年々下がっているうえ、基本的に儲からず、きつい仕事ということもあり、なかなか活性化しません。そこで弊社では、水産系の需要と供給を拡大する2つのアプローチを行っています。まず需要ですが、肉や生鮮食品はおいしさや価格を証明する規格がありますが、魚は魚種や重量で決まります。そこで、魚をセンサーで測り、鮮度と旨みの規格を作りたいと考えています。供給に対しては、魚の行動を定点観測し、それをAI研究者が3Dでシミュレーションすることで、養殖のスマート化や生産性向上、コスト削減を実現します。きつい仕事を格好良く、儲かる産業にすること、そして日本で作った魚を安心安全でおいしいジャパンクオリティとして、お届けできるように勤めています」
農林水産省は「日本のフードテックと農林水産省の取り組み、日本食の強み」について、新事業食品産業部の飯田明子氏が説明。農林水産省は現在、食の新しい市場の創出、社会課題の解決につながるフードテックを推進し、2020年にはフードテック官民協議会を立ち上げ、さまざまな取り組みを行なっている。
「日本は古来より大豆や海藻、野菜を多く活用してきました。代替タンパクの主流である大豆加工や、今世界で注目を集める発酵食品などは、日本が昔から行っていることです。それゆえフードテックという新しい技術の中にも日本らしさを出せるのではないかと思っています。一方、健康と栄養に関してみると、オランダのNGOによる食品企業評価が投資家に活用されてきています。ただ、これは肥満など欧米の栄養課題を前提に製品評価がされており、日本の栄養、健康課題、食文化に合った物差しで世界に発信していく必要があると考えています。」
他にもインスピレーショントークには、大手食品企業やベンチャーキャピタル、スタートアップなど、さまざまな分野のプレーヤーが登壇。食の未来について、多角的な視点を提示した。
【イベントレポート後編】日本のFOODエコシステムをリード!異分野融合で新たな食の製品・サービスを”社会実装する”「Future Food Connect 2024」9月12日実施に続く
<文 / 林田順子>