学生たちが描く「Beeat!!八重洲」未来の食プロジェクト
企業、地方自治体、飲食店、学生からアーティストまで、さまざまなジャンルの人々が食の未来やウェルネスを考えるイベント『Beeat!!八重洲』。9月から始まる八重洲でのイベントの中で注目したいのが、学生たちが描く未来の食プロジェクト。東京大学と宮城大学の学生が共同でワークショップを重ね、現在の食がかかえる課題を見つめ、ありたい未来の食の姿を提案する。
この企画に携わった東京大学大学院農学生命科学研究科 One Earth Guardians育成プログラムの三坂巧准教授と中西もも准教授、宮城大学食産業学群の石川伸一教授の3名に当プロジェクトについて語ってもらった。
大学や学部を超えて共創した貴重な機会
中西もも(以下 中西):私たちは、「100年後の地球のために」をスローガンに、東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部の「One Earth Guardians育成プログラム」を推進しています。このプロジェクトでは違うバックグラウンドやコミュニティの学生とひとつのワークショップに取り組めるのが魅力的で、プログラムの受講生たちと参加をさせていただきました。
石川伸一(以下 石川):私も研究室の学生たちと参加をさせていただきましたが、参加を決めた理由のひとつが、東大の学生さんとご一緒できるのは、良い経験になると思ったからでした。
中西:『Beeat!!八重洲』のイベント会場での展示やウェブサイトという、具体的な発信の場があるというのもポイントでしたね。自分たちの中だけで考えるのではなく、他の人にどう伝えるかというのは大事なことなので、その場をいただけたのはすごくありがたい経験でした。
三坂巧(以下 三坂):本当に。アイデアはあっても予算がなくて実現できないことも多いです。また、学部や専門分野を超えて1つのプロジェクトに参加することは、大学においては大変貴重な機会なので、その点においても企業や自治体との共創は意義があると思います。
東大と宮城大、それぞれの良さと課題
石川:今回のワークショップは、「食の未来を考える」と言うキーワードで学生たちに自由に発想してもらい、ディスカッションをしていく流れでした。うちの学生たちは、自由で楽しい発想は積極的なのですが、理由づけをブラッシュアップしていくことが苦手で。そこは東大の学生さんに助けられたと思っています。
中西:私は逆に、そこがOne Earth Guardiansの学生の課題なのだろうと思いました。「食の課題」と言うと、例えばフードロスや食料問題など、全体を俯瞰したシステムとして捉えることが多かったのです。だけど食は個人の体験でもあるじゃないですか。宮城大学の学生さんは、個人として感じた問題にフォーカスすることができる。例えば「孤食」の問題などはOne Earth Guardiansの活動ではあまり出てこない視点でした。あと、みなさんとてもフレンドリーで、最初から積極的に意見を出してくれたり。宮城大学の学生さんの雰囲気に助けていただいたところがありました。
石川:うちの学生は野生的と言うか、本能的と言うか、感性的と言うか(笑)。どちらにしてもお互いに刺激になる部分があったのではと思っています。
教育者として若い世代に期待するものとは
三坂:僕が思っていたよりもしっかりと課題を把握していたのも良かったですね。若い世代も捨てたものじゃないなと感心しました。僕らが思いもつかないようなアイデアが出たのもよかった。例えば「環境」というキーワードでイラストを起こすときに、どんなものを描くのだろうと思っていたら、ある学生が、「いただきますを考えよう」と人と人、地球がつながっていることをイラスト化した。普通「環境」と言うと、水をきれいにしようとか、ゴミをなくそうと考えがちなのですが、全然違う発想を出してきて。自分はもうおじいさんだな、今の学生達はすごいなと思いました(笑)。
中西:公開されるコンテンツを作る段階で、これを見せるのはどんな人か真剣に考え始めるようになったのも収穫でした。このイベントは八重洲で働く方が目にする機会が多いと思うのですが、「八重洲のオフィスワーカーってどんな人ですか?」と学生が聞いてきて。考えてみたら、私も身近にはあまりいなかったのですが(笑)。研究はもちろん大事ですが、伝える相手がちゃんといて、その相手のことを想像しながら伝える努力をするというのはとても価値があると思っています。
三坂:若い世代が考えて発信する場をいただけた今回の機会は、本当に貴重でしたよね。
中西:大学の中だけで閉じていると、いわゆる一般の方の反応というのは、なかなか見えない部分なので、今後もこのようなイベントがあれば、参加していきたいですね。
石川:今回のイベントは4月スタートでしたが、4年生になると就活や卒論が重なってくるため、対象学年を広げたらどうなるのか興味があります。高学年になれば食に関する専門知識が増えて、議論を深めることができますが、知識が入っていない低学年だからこそ食の未来を偏見なく、広義的な見方ができるのでは、という気がします。
三坂:このイベントを通して学べたことをどうやって持続可能な教育システムに落とし込めるかが我々の課題だと感じました。社会人であれば1度でもこういうイベントを経験すればスキルアップして、キャリアを積んでいけます。ところが大学だと、そのとき在籍していてたまたまイベントを経験した子はスキルを身につけられますが、翌年には全く経験のない新しい学生が入ってきて、彼らもなんとかしなくてはいけない。我々の経験はどんどん上がりますが、対象となる学生は変わっていくなかで、来年、再来年はどうしたらいいと思いますか?
中西:確かに教育プログラムとしての持続可能性という問題はありますが、人が流動していくのは大学の宿命だと思っています。経験も知識も積んだ学生もいれば、知識や経験は少ないかもしれないけれど、そのぶん柔軟性がある若い層がいて。色々な層が混ざり、常に入れ替わっていくのは教育組織としての健全な姿だと私は思っています。
石川:経験の伝承はできないので、色々な年代の人が定期的に経験してもらえる場を我々大人が用意しておくことが大切になっていくでしょうね。
Beeat!!八重洲(ビートヤエス)
https://beeatyaesu.com/
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部「One Earth Guardians育成プログラム」
https://www.one-earth-g.a.u-tokyo.ac.jp/
宮城大学 石川伸一研究室
https://www.ishikawalab.com/
<文 / 林田順子>