【後編】アマン東京の3人のシェフが見据える食の未来とは
食の安全を守るための3人のシェフの取り組み。
「アルヴァ」の平木正和総料理長は、現場を深く知るため全国各地の生産者のもとへ、関根崇裕副総料理長はアマン東京全体としてサステナブルフードに向かい合い、鮨店「武蔵 by アマン」の親方、武蔵弘幸は安全な米作りに取り組む。それぞれの立場から見えてきた、食の課題などを語ってもらった。
安全なシャリを求めて、親方自ら田植えに着手
武蔵:だけど本当の意味での無農薬と言うのは不可能ですね。自分たちが使わなくても、周りの畑が使っていたら影響が出ますし、伝染病を出すわけにはいかないから、少しは薬を与えないといけない。それでも必要最低限しか使わないので、周りの田んぼと違い、うちには虫が寄ってきます。農薬の影響の強さを感じますね。
平木:ただ、そういう農家さんが一般家庭の食を支えてきたのも事実で、一概に農薬を使うことを否定はできません。
武蔵:うちは除草剤を撒いていないから2週間に1度は草刈りに行くのですが、手作業なので朝の5時から始めて、昼を過ぎても終わらない。小規模だからできますが、仕事となったら無理です。
持続可能な食に対するシェフたちのアプローチとは
平木:今年は武蔵さんが「空いている畑でイタリア米を作ってみたらどう?」と言ってくれて。いざやろうとしたら日本でイタリア米なんてほとんど作っていなくて、必死で種を探しましたよね(笑)
武蔵:そうでした(笑)。金銭的な問題や後継者不足により、廃業せざるをえない生産者も多いが、今は空いている田んぼも多い。だから私のような素人でも田んぼを借りることができる。
平木:生産者に良いものを作ってもらわないと、料理人の力だけでは良い料理は作れません。彼らの食材を使うことはもちろん、世の中に発信していくことも、アマン東京や我々の大切な役割だと思っています。個人的にはインスタグラムで産地を訪れたときの様子やレシピなどを発信しています。
関根:シェフそれぞれがフレキシブルに動けるのは、あえて最低限のマニュアルに抑え、自主性を尊重するアマングループだからこそだと思っています。武蔵さんの米のほか、朝食でも使用する米を作ろうと、今はさらなる段階を目指しています。
ビルの屋上で農業がしたい。シェフたちの野望。
平木:アマン東京のビルには広い屋上があるのですが、僕は次なる挑戦として、そこに畑を作りたい。ミツバチを育てて蜂蜜を取ったり、ヤギを飼えばチーズも作れるし、糞は堆肥にしたり……夢は膨らむばかりです。
武蔵:それは良いアイデア。天日に当てる必要があるので、今は作っていないのですがカラスミもあの屋上があれば作れます。大手町産の梅干しも良さそうです。
平木:育ててきた生命を食材に変えるというのはどういうことなのか。それを身近に感じることは若い料理人にとっても良い経験だと思います。
関根:本当にできたら面白いですよね。こうやって3人それぞれが違うアイデアを持ち寄り、レストランだけでなく、ホテル全体でもいろいろなことに挑戦していきたいと思っています。
アマン東京 メインダイニング『アルヴァ』
https://www.youtube.com/watch?v=QBWT4T7-65M
<文 / 林田順子>