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【外村仁氏】日本のフードテック発展に必要な大企業の役割 Food
Innovation

【外村仁氏】日本のフードテック発展に必要な大企業の役割

日本でもフードテックが徐々に浸透し、シェフや教育機関、スタートアップ、大企業などが続々と参入を始めている。早くからフードテックの重要性を説いてきたエバンジェリストの外村仁氏は、2021年11月24日に開催された国連WFP(世界食糧計画)主催「東京栄養サミット2021」公認のオンラインイベント「未来をつくる食料支援とフードテック」に登壇。「Food Techの潮流と社会貢献」と題した基調講演の中で、フードテックが担うべきは「単なる食へのアプローチではなく、社会課題を解決し、人および地球を持続的に幸せにすること」だと語った。その手段となるテックの現在地や社会に影響力をもつ日本の大企業の役割とは。講演内容から抜粋して紹介する。

※写真上:外村仁氏 基調講演資料より  「フード・イノベーション・マップ」

 

フードテックが解決する食の課題とは

 

フードテックはフード業界の問題や課題に対して、テクノロジーや資金が流れ込んだハイブリッド産業として生まれたものです。
では現代社会が抱える食の問題とは何でしょう。
例えば貧困地域の食料問題があります。香港のスタートアップ「IXON Food Technology」は、肉や魚を常温で流通できる技術を開発しました。1年保存できるため、冷蔵庫がない、輸送状況が悪いといった地域にも高品質のタンパク源を届けることができるようになります。

 

Image2.001外村仁氏 基調講演資料より


パーム油等の廃液による環境問題は深刻になっていますが、沖縄のスタートアップ「AlgaleX」は、通常なら2~3ヶ月かかる廃油処理を、数日で分解できる藻類を発見。さらにその応用で、泡盛粕からも体の維持に必要な栄養素DHA(ドコサヘキサエン酸)を生産することができるようになりました。さまざまな疾患の予防・改善効果もあるとされるDHAが魚以外から採取できるようになれば、海のサスティナビリティにもつながります。

 

Image3.001外村仁氏 基調講演資料より

 

消費者が自然に社会課題に関われる環境を作るために

 

こういったテクノロジーは既存のフード業界からは、なかなか出てこない発想でしょう。ITやAI、自動車産業もそうでしたが、世界のスタートアップは、これまで考えられなかったようなスピードと発想、資金の投入で新しい製品やサービスを次々と生み出しています。
フードテックは、日持ちがするなどといった食品そのものに対するテクノロジーだけではなく、今や環境問題や栄養問題、パーソナライゼーションなど、広範囲に関わるものです。これらのテクノロジーが広まり、幅広い層の消費者が、フードテックを活かした商品やサービスを無理なく日々の生活に取り入れることができれば、社会課題の解決を持続的に行うことができる社会の実現につながります。

 

日清食品が取り組む完全栄養食とは

 

ではこのような「新興イノベーター」に頼らないといけないのかというと、必ずしもそうではありません。すでに動いている大企業もあります。日清食品は栄養不足や栄養バランス、飢餓の解消を目指し、現在、完全栄養食に取り組んでおり、私も実際試食させてもらいました。
例えばカレーライスは、通常だとタンパク質が足りず、炭水化物や脂肪が多すぎます。ところが日清の完全栄養食のメソッドで作ると、炭水化物や脂肪を減らせるだけでなく、33種類の必須栄養素も摂取できる。ナポリタンも昔の喫茶店に出てきた味そのままなのに、カロリーは半分、塩分は2/3、不飽和脂肪酸は1/3に抑えつつ、必須栄養素もすべて摂取できるものになっていて驚きました。

 

Image4.002外村仁氏 基調講演資料より 日清食品の完全栄養食は単品メニューでも栄養バランスが整っている

 

私も試食してみましたが、おいしくて驚きました。ふつうは栄養素を添加するとえぐみやにがみが出てしまうんです。ですが、おいしくなければ、いくら栄養バランスに優れていても、食べてもらえません。そこで日清食品は、スパゲティなら、中心部分に栄養素を入れて、周囲を小麦粉で包む技術でこの問題を解決しました。
他にもさまざまなテクノロジーを駆使して、すでに300以上ものメニューを開発。2022年中には一般に販売予定とのことで、私は大変期待をしています。

 

フードテックにおける大企業の役割とは

 

日本では、一般社会への影響力はスタートアップよりも大企業のほうが未だに大きいものです。しかも日本の食品企業はこの50〜60年、世界の食のレベルを引き上げるような、世界初の技術を色々と生み出してきた「元祖イノベーター」と呼べる存在です。
元祖イノベーターのグローバルなネットワークや底力と、新興イノベーターの新しい考え方やスピード感を融合することが大切です。そのためには、影響力も資金力もある大企業がもっとスタートアップと手を組み、テクノロジーを活用した商品やサービスを創り出し、フードテックという産業を牽引していくことが必要だと考えています。

 

<協力>
「東京栄養サミット2021」公認イベント「未来をつくる食料支援とフードテック
主催:
国連WFP
朝日新聞社総合プロデュース本部(朝日新聞SDGs ACTION!

 

外村 仁 
Hitoshi HOKAMURA
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東京大学工学部卒業後、戦略コンサルティング会社Bain & Companyで経営コンサルティングに従事。その後Apple社で市場開発やマーケティング本部長職などを歴任。2年間Appleを休職し陸路でヨーロッパに渡り、初年度はフランスINSEADで夫人がMBAを取得する間主夫として毎日料理に勤しみ、翌年交代しスイスのIMD(国際経営大学院)でMBAを取得。
2000年シリコンバレーに移住し、ストリーミング技術のベンチャーGeneric Mediaを共同創業、1200万ドルの資金調達から売却までを経験する。その後First Compass Group を共同創業、2010年からはエバーノートジャパン会長を務め、NTT DoCoMoや日経新聞との資本・業務提携を推進しEvernote社のユニコーン化に貢献。またEvernote時代にはChief Food Officerという愛称でも知られる。現在、スクラムベンチャーズ、All Turtles、mmhmm等でアドバイザーを務める。2016年にSmart Kitchen Summit Japanを共同創設、さらに2020年秋にFood Tech Studio – Bites!を創設し、日本の大手食メーカーと世界のスタートアップによるオープンイノベーションを推進中。またSKS-Jの共同創設者とともに『フードテック革命』を日経BPより出版。全日本食学会会員。肉肉学会理事。総務省「異能ベーション」プログラムアドバイザー。
2022年、チップ・コンリー氏の著書『モダンエルダー』(日経BP刊)の出版に関わり、本書に日本人読者のための解説を寄せる。

 

<文 / 林田順子>