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【イベントレポート】 パートナーと共に「リジェネラティブ」を問い、実践した1年――8goが1周年記念イベント開催 Food
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【イベントレポート】 パートナーと共に「リジェネラティブ」を問い、実践した1年――8goが1周年記念イベント開催

東京建物が美食科学のアカデミア「Basque Culinary Center」(スペイン、以下「BCC」)の運営するGastronomy Open Ecosystemと連携して設立したGastronomy Innovation Campus TOKYO(以下「GIC Tokyo」)に併設し、当社団もさまざまな活動に協力している「Innovative Kitchen 8go」が八重洲にオープンして1周年。これを記念し、2026年6月16日に日頃から8goを支えるパートナー企業・生産者・研究者を招いたイベントが開催された。会では、この1年間の取り組みをまとめた「インパクトレポート」を発表するとともに、来場者の交流会も行われた。


「リジェネラティブ」とは何かを問い続けた1年

 

コーヒー抽出後の残渣を活用したウェルカムドリンクがふるまわれたのち、8goでディレクターを務めるシェフの野田達也氏の挨拶でイベントがスタート。「視点を変えると、何でもリジェネラティブな捉え方ができてしまう。逆に一見リジェネラティブに思えることも、角度を変えれば本当にそうなのか分からなくなる」。野田氏は率直にこう語り、この日は成果を誇示する場ではなく、1年間実践してきた内容をそのまま共有し、今後どんなインパクトが生まれるかを共に確認していく場だと位置づけた。
日々のオペレーションでは、できる限り廃棄が出ないように食材を活用し、それでも排出されてしまう食品残渣は堆肥化し、ビル屋上のハーブ栽培や、埼玉県鴻巣市の農園で活用してきた。使う資材や消耗品も、置き換え可能なところから少しずつ見直しを進めている。「無理して取り組むというより、持続できるものから一つずつ」という姿勢を、野田氏は繰り返し述べた。メニュー開発においても、その一皿が本当にリジェネラティブといえるかどうかを、日々問い直している。

 

数字で振り返った、1年間の足跡

 

インパクトレポートの発表にあたり、始めにこのレポート制作を手がけた、RIDEの国府田氏から感想をもらった。「1時間半ほどインタビューさせてもらい、活動をリストにしたのですが、後日全ての取り組みリストを送ってもらったところ、お話しに上っていなかった取り組みが想定の以上にあった」と驚きを振り返る。「飲食店としてできることをここまでやっていることを示す、一つの教科書のようなものになるのでは」と評した。

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レポートには、この1年の活動が数字で示されている。GIC Tokyoを併設する強みを生かし、食にまつわる専門家や研究者とともに行ったイベントは81件。開発したメニューは188品。店舗から出た廃棄物量は3,637kg。これは絶対量の多寡ではなく、数字をもとに日々トラッキングすること自体を大切にしているという。
開発したメニューの例として紹介されたのが「海藻のつくね」だ。海藻はシーベジタブル社が海面養殖する「トサカノリ」と「ミリン」。養殖開始から1年間のデータでは、周辺海域の魚類個体数が回復する傾向が確認されている(一般社団法人グッドシー調べ)という。さらに、肉を一切使わず、ディーツフードプランニングが手がける、おからとこんにゃく由来の次世代タンパクを使用する。「『代替』という言い方はもうやめたほうがいい。比較の対象にするのではなく、新しい選択肢として意識づけたい」と野田氏。

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蝦夷鹿の廃棄率、90%から10%未満へ――北海道視察レポート

 

このイベントの直前には北海道恵庭市へ視察に赴いていた。野田氏とともに現地に足を運んだシェフのIbuki氏が報告する。「猟師の村田さんご兄弟にお話を伺い、加工場を見せてもらい、猟にも同行させていただきました。100メートル先の鹿を仕留め、全速力で追いかけていく姿を目の当たりにして、食材をもっと大切に、ていねいに扱いたいという気持ちが高まりました」
この兄弟が活動を始める前、そのエリアで害獣として駆除された鹿は90%以上が廃棄されていた。しかし現在この数字は逆転し、今では廃棄率が10%未満にまで下がっているという。おいしさも追及すべく、独自の厳格なルールを設け、メス鹿の1歳半までの肉はレストラン向けに、オス鹿や硬い肉や内臓は高級ペットフードの原料に、骨は煮出してゼラチンへ、皮は革製品へと余すことなく活用される。「命を奪うことへの複雑な思いがある一方、農作物被害も深刻な問題です。命の大切さを、おいしさに変えて届けたい」。この視察で得られた数字も、そのままインパクトレポートに掲載されている。

 

GIC Tokyoが育む、シェフと研究者の共創

 

イベントでは、隣接するGIC Tokyoでこれまでに実施された「サイエンストークカフェ」(全3回)も紹介された。分子調理学の第一人者である宮城大学・石川伸一教授が原理を解説し、参加者とともに実験や試食を行うスタディプログラムだ。石川氏は印象的なエピソードとして、液体窒素でバナナの皮を粉末にした際、参加者の反応を受けて、野田シェフがその場で柑橘の果汁を凍らせ、皮の粉末を組み合わせた新たな一皿を即興で生み出したという。「研究者だけでは生まれない発想。シェフと一緒に作り上げることで、新しい価値が生まれることを実感した」と振り返った。
さらに、慶應義塾大学・元木氏や東京科学大学・山口氏との「盛り付けの心理学的研究」も進行中。「研究者がシェフと共同で研究できる機会はなかなかない」と石川氏は語り、企業や研究者が食材や技術を持ち寄り、シェフとともに新たな可能性を探る8goならではの共創の価値を強調した。音楽と料理をペアリングさせる試みや、咀嚼が難しい人に向けた3Dフードプリンターの活用など、多角的な視点で食を見つめる取り組みもこの場から生まれている。

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こうした企業、シェフ、科学者等との実証・共創拠点であるGIC Tokyoと、そこで生まれたものをメニューとして社会に実装していく役割を持つ8goについて、東京建物の沢田氏が紹介した。「弊社はデベロッパーとして130年の歴史がありますが、建物というハードだけでなく、ソフトの価値が必要だと考えるようになりました。スペインのBCCとご縁をいただき、世界最高峰と手を組むことになりました。野田さんの人柄に惹かれて集まってくる方が本当に多い。皆さんが野田さんのファンになって、何かを一緒にやりたいと思う、その繰り返しが、ここでの繋がりを生んでいます」

この場を通じて、ぐるなびが運営する若手料理人コンペティション「RED U-35」との連携も生まれた。「RED U-35」とは書類審査から実技・面接まで半年をかけて選考が行われ、料理力に加え、言語化力や考察力、社会性なども問われるものだ。野田氏自身も史上初となる3度の準グランプリを受賞歴をもつ。この審査をクリアした約500名のシェフのコミュニティは「CLUB RED」といい、今秋からJALファーストクラスの機内食の監修を行ったり、地域の生産者のもとを訪ね、価値を掘り起こすツアーを行ったりしている。さらに、東京建物とCLUB REDは、料理人の視点で地域の食材や生産者の魅力を発信する新たな取り組みも開始する。シェフと地域をつなぎ、新たな価値を生み出す共創の場として期待されている。そして、この8月より、8go/GICTとの連携により、東京建物の施設「TOKYO FOOD LAB」を舞台に、料理人と地域、生産者をつなぐ共創プロジェクトが始動することとなった。

もう一つの共創の実例として、セブン-イレブン・ジャパンとの腸活スムージー開発も紹介され、来場者に試飲が配られた。GIC Tokyoでの縁から始まったプロジェクトで、脳腸相関を研究するバクテリコの菅沼氏が監修に加わり、野田シェフが開発。忙しい人でも気づけば健康になれるようにと、無添加・砂糖不使用ながらおいしさにこだわった設計にした。子どもや妊婦でも飲めることを意識したという。開発には毎回15名ほどが集まり、試作と試食を重ねてきたそうだ。セブン-イレブン・ジャパンの前田氏は「コンビニエンスストアはまだウェルネスや環境というイメージから遠い存在かもしれませんが、このスムージーを通して“自然な素材で気づけば健康になっていた”という体験を届けたい」と語った(7月28日より中央区千代田区の一部にて発売開始)。

 

ブルーノート農園と中継をつなぎハーブの活用をレポート

 

休憩を挟み、後半は埼玉県鴻巣市の須永農園と中継を結び、「ブルーノート農園」の取り組みが紹介された。ブルーノート農園は、耕作放棄地だった約1,000㎡の土地を再生し、レストランで発生する生ごみをコンポストで堆肥化、その堆肥を活用してハーブや果実などを育てる循環型農園である。ブルーノート・ジャパン創立35周年を機に、一昨年から同社、須永農園、野田シェフと共同で立ち上げられたプロジェクトで、現在では循環型の取り組みとして着実に形になり始めている。
当日はラベンダーが見頃を迎え、ミツバチが飛び交う中、各店舗から集まった約20名の社員が収穫作業に汗を流した。「このプロジェクトを通じて初めて土に触れた、という社員も多いんです」そう語るのは、ブルーノート・ジャパン取締役・および総料理長の長澤氏。レストランから生まれる資源を畑へ還し、育てた作物が再び食卓へ戻る。料理を起点とした循環を、社員一人ひとりが実際に体験する場にもなっている。

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続いて収穫したミントやレモングラスの活用法を紹介した。「店舗ではハーブティーにしたり、細かく刻んで料理や肉の風味づけに使ったりしています。レモングラスは千葉県にあるmitosaya薬草園蒸留所で蒸留してもらっており、もうすぐ蒸留酒が完成します」

 

植物性の食材だけで仕上げたうまみたっぷりのリゾットを試食

 

中継が終わると、会場では、原木しいたけを使ったリゾットの調理実演も行われた。熊本県の村上林業から提供された原木しいたけをフランス料理の技法で戻し、バニラとハーブを合わせた戻し汁で上品な香りに仕上げる。動物性の出汁もチーズも使わず、植物性バターにAlgaleX社の発酵調味料「うま藻」、ファーメンステーション社の「発酵ライスブラン」を合わせることで、コクと複雑性を出した。仕上げには、須永農園のトマトの種や皮など、通常廃棄される野菜の端材を低温乾燥してシート状にしたものを薬味として添える。「植物性の食材だけだと、どうしてもうま味やコクに物足りなさを感じてしまうが、発酵由来の素材を組み合わせることで、その弱点を補っている」とIbuki氏。「動物性の要素を使わず、満足感のあるひと皿に仕上げるには、さまざまな要素の掛け合わせが必要でした」と野田氏。グルテンフリーやヴィーガンなど、多様な食の好みをもつ客が同じ一皿を囲めるようにという思いも込められている。

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次の1年へ、おいしさと社会課題解決の両立を

 

閉会にあたり、野田氏はこう語った。「私たちだけでは、何も形にならない。皆さんと対話することで、初めて新しい価値が生まれる。これまではおいしさの追求ばかりを追いかけてきましたが、これからはおいしさと課題の解決を両立させる料理を作っていきたい。今年は社会実装につなげ、実際に何かのインパクトを出すことに挑戦したいと思います」
その後はネットワーキングタイムとなり、同じ思いを抱くさまざまな企業や団体の方々が、それぞれのスキルやアイデアを交換し合った。終了時には契約農家から届いた野菜が土産として提供され、1年目の記録を分かち合う場は、活気あふれる雰囲気のまま幕を閉じた。

 
 
Innovative Kitchen 8go

東京都中央区八重洲1丁目4-16 八重仲ダイニング 地下2階
https://8go8go8go.jp/

 

<文 / 吉野ユリ子>