【イベントレポート】【沢田明大氏】Basque Culinary Centerのグローバル初拠点・GIC Tokyoにおける、“レストランマネジメント”講義プログラム
GIC TokyoにてBCC“レストランマネジメント”プログラム講義が開催
ガストロノミーとサイエンスを融合させ、食を全方位から体系的に学ぶことができる先鋭的な学術機関Basque Culinary Center(BCC)。
そのBCCのカリキュラムを、世界で唯一学外で受講できるのが、東京・八重洲に設立されたGastronomy Innovation Campus Tokyo(GIC Tokyo)である。GIC Tokyoでは、2026年の本格始動に向けて、現在食業界に携わるすべての人を対象にした多様な特別プログラムを展開している。
今回、GIC Tokyoを運営する東京建物株式会社・沢田明大氏に、2025年6月に実施された主にシェフやオーナー向け「Restaurant Management」プログラムの狙いと背景について話を聞いた。

「GIC TokyoはBCCのオープンエコシステム・GOeのグローバル拠点として開設され、教育プログラムを提供していきます。BCCのユニークな点は、調理技術だけでなく、カルチャー、マネジメント、マーケティングなど、食を360度あらゆる視点から学べることにあります。GIC Tokyoではそのエッセンスを受け継ぎつつ、日本の食文化や産業構造に即したプログラムを企画しています」
2025年6月に2日間にわたり実施されたのは、主にシェフやレストランオーナーを対象とした「Restaurant Management」コース3コマだ。東京建物はこれまでも、世界の調理技術の潮流を学ぶシェフ向けの1DAYプログラムを開催してきたが、今回のプログラムではさらに踏み込み、経営戦略と組織運営の両面からレストラン経営を再興する内容とした。
「日本のシェフは、社会に出てからの学び直しの機会が少ない。また、何代にわたり飲食店を継承してきた老舗飲食店の方々も、自らの事業を客観的に見直す契機を持つことが難しい。もちろん横のつながりやシェフコミュニティから得られる情報はありますが、GIC Tokyoを訪れれば、世界トップクラスのBCCによる新たな学びの場にしたいと考えています。」
今回の講師を務めたのは、BCCの教授陣であるルイス・アラファット氏とハビエル・イトゥラルデ氏。アラファット氏は、スペインの名店エル・ブジの最終シーズンでヘッドパティシエを務めた経歴を持つシェフリサーチャー(研究者)であり、創造性と経営の両立をさまざまな飲食店に提供している。一方、イトゥラルデ氏は、人事・組織運営・オペレーションを専門とする経営研究者として、ガストロノミー産業におけるマネジメント理論を研究している。
東京駅前・八重洲という立地に、今回のプログラムには、新たな価値を模索するシェフ以外にも、近隣の老舗飲食店経営者など幅広い層が参加した。
レストラン経営を構造的に考える2日間のプログラム
初日のテーマは『戦略的レストラン経営』。
日本では飲食店許可数による制限がなく、開業後廃業率も高い。またコロナ渦の融資返済により、再び厳しい経営状態にさらされている経営者も少なくない。このような現状を改善するための、戦略的思考の重要性は増していると沢田氏は語る。
「ガストロノミーにおいてレストランマネジメントは欠かせない要素です。それにも関わらず、日本ではこの分野を体系的に学べる場がほとんどなく、専門的知見が不足しているのが現状です。そこで初日のプログラムでは、レストラン経営における戦略設計の概念や、ビジネスモデルの構築、設計図の描き方などを、実践的な事例を交えて共有しました」

講義だけでなく、受講者は自店舗を題材に、主要なパートナーシップ、具体的な活動やリソース、顧客関係、コスト構造、収入源などを整理し、自身の事業の構造を可視化するワークを行なった。
「講師が世界のみならず日本の大手飲食店を事例に取り上げたことで、参加者も具体的なイメージを持って取り組むことができました。特に自分たちの強みは何かを考え直す機会となったとの声をいただきました。また、老舗飲食店では先代からの経営手法を引き継いでいる場合も多く、事業を言語化し直す契機になったようです。こうしたフレームワークは世界のレストランビジネスではスタンダードであるという認識を持てたことは、直接BCCの講師から聞けた成果でした。」
2日目は「Gastronomy思考のレストラン経営」をテーマにアラファット氏が講義を行った。「おいしさ」はレストランの核であるが、それを持続的なビジネスに昇華させるためには、創造性と構造性の両立が欠かせない。
「レストラン運営において、おいしさは最重要の価値です。しかし、それをビジネスとして成り立たせるためには、どのような戦略が必要なのか。成功の分岐点はどこにあるのかを、シェフリサーチャーならではの戦略的視点で解説しました」
アラファット氏は自身の経験とともに、国内外の革新的レストランや企業のビジネスモデルを紹介し、文化的背景・顧客心理・ブランド構築の重要性を踏まえたうえで、ガストロノミーを経営資源として活かす方法を提示した。

最終日は「ビジネス成功への戦略と数値設定」をテーマに、原価率、利益率、固定費などの基礎指標を可視化しながら、事業の収益性を分析した。
「コストの割合は国やエリアによって異なりますが、精緻な原価計算なくして、利益は生まれません。参加者には実際に数値を算出していただき、どの水準で利益率を確保すべきかを学んでいただきました」

双方向の学びと共創の場として進化し続けるプログラム
今回のセミナーでは、質疑応答の時間に重きを置いたという沢田氏。
「参加者の質問を通じて、現場の課題を共有し、議論する場が今までいかに限られていたのかを改めて感じました。海外のトップシェフがどのような思考で店舗を運営しているのか、認識をすり合わせながら対話する時間も非常に有意義であったと感じています。また講師陣も日本の飲食店が直面する家賃比率の高さを感じながら、互いの現実を踏まえながら、新たな経営モデルを模索するスタートラインが見えたように思います」。
近年ではオンラインでのセミナーが一般化しているか、クローズドな環境だからこそ、具体的な失敗事例など、より踏み込んだ議論が可能であったことも重要な点である。一方向的な講義ではなく、質疑応答を経て、講師のアイデアを交えながら、参加者が気付きを得てアップデートしていく“共創型教育”の場の提供も東京建物が重視している点である。
またプログラムでは体感できる試食も学びの重要な要素としている。
「BCCの講師陣には有名店のシェフ出身者も多く、彼らは高い料理スキルを基礎素養として持っています。料理人の共通言語はやはり『おいしい』という感覚ですから、机上の論理だけでなく、それらがどのように料理に体現されているのかを体験ことで、より理解が深まると考えています」
近年ではオンラインでのセミナーが一般化しているか、クローズドな環境だからこそ、具体的な失敗事例など、より踏み込んだ議論が可能であったことも重要な点である。一方向的な講義ではなく、質疑応答を経て、講師のアイデアを交えながら、参加者が気付きを得てアップデートしていく“共創型教育”の場の提供も東京建物が重視している点である。
前出の通り、現在BCCのプログラムを受講できるのは、本校のあるスペインのサンセバスチャンを除けば、世界でGIC Tokyoのみである。BCCには500を超えるプログラムが存在するが、GIC Tokyoではそれらの講義を単に移植するのではなく、イベントや共同プログラムを重ねながら、双方向的な意見交換を通じて、独自のカリキュラムを構築している。
このような取り組みが可能であるのは、東京建物とBCCが長年にわたり培ってきた連携の成果と言えるだろう。
食を通じて文化・地域・経済をつなぐ知のプラットフォームとして、GIC Tokyoが今後どのようにガストロノミー教育の未来を拓いていくのか。その歩みに改めて注目したい。

沢田 明大
Rocky SAWADA

北海道帯広市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、東京建物株式会社にて、住宅事業を担当し、米国東京建物駐在を経て、国内外不動産のクロスボーダー取引を担当。2021年より、サステナブルのその先“リジェネラティブ”な社会を東京から実現するため、様々なみなさんとFOOD食を軸とした共創とイノベーション創出をサポートしている。
Gastronomy Innovation Campus Tokyo(GIC Tokyo)
東京都中央区八重洲1丁目4-16
八重仲ダイニング 地下2階
https://gictokyo.com/
<文 / 林田順子>